関曠野講演録「ベーシック・インカムについて考える ― マネーは何のためにあるのか」

関 曠野 講演録

ベーシック・インカム
について考える

― マネーは何のためにあるのか ―

TAGTAS/FORUM第三期レクチャーより
2010年12月27日 於:Spaceカンバス
「ベーシックインカムを考える ― マネーは何のためにあるのか」

講演者:関 曠野

この講演録は、関曠野さんがお話しされた内容に加筆・訂正していただいたものです。

主催:TAGTAS 前衛舞台芸術連合

TAGTAS(トランス-アヴァンギャルド・シアター・アソシエーション)が、年間を通じて公開の連続研究会を開催しています。 「TAGTAS/FORUMー条件なき大学ー」は、演出家、振付家、舞踊家、俳優、舞台制作者など舞台上演に関わるものや、人文研究者などが集まって、互いの領域を横断しながら、協働で討議していく公共の場所を目指しています。 舞台に関わるすべての方々をはじめ、学生、社会人、反/非社会人などの幅広い参加をお待ちしています。 年間で全三期30回を予定しています。

http://d.hatena.ne.jp/tagtas/

講演 INDEX

  1. はじめに
  2. なぜBIが必要なのか
  3. 恐慌はなぜ起こるのか
  4. 1. 法定通貨
  5. 2. 負債経済
  6. 3. 利子
  7. 部分準備制度と信用創造
  8. 恐慌の原因、まとめ
  9. 「政府通貨」の発行
  10. 「租税国家」とは
  11. 経済成長モデルに立脚する租税国家
  12. 政府はなぜ銀行を救済したのか
  13. アイスランドと、ギリシャ・アイルランドとの財政破産の違い
  14. 租税国家から社会信用国家へ
  15. ソーシャル・クレジット・ステイト
  16. 政党政治と租税国家
  17. 自治体の連合体としての国家
  18. 中央と地方
  19. 自治体銀行 ―― 段階的な戦略
  20. 社会実験を促進するためのBI
  21. BIの未解決問題 ―― 3K労働

はじめに

関 曠野さん

話し手:関 曠野さん

1944年生まれ。評論家(思想史)。共同通信記者を経て、1980年より在野の思想史研究家として文筆活動に入る。思想史全般の根底的な読み直しから、幅広い分野へ向けてアクチュアルな発言を続けている。著書に『プラトンと資本主義』、『ハムレットの方へ』(以上、北斗出版)、『野蛮としてのイエ社会』(御茶の水書房)、『歴史の学び方について』(窓社)、『みんなのための教育改革』(太郎次郎社)、『民族とは何か』(講談社現代新書)などがある。また訳書に『奴隷の国家』ヒレア・べロック(太田出版)がある。現在、ルソー論(『ジャン=ジャックのための弁明 ― ルソーと近代世界』)を執筆中。

どうも関です。

ベーシック・インカム(以下BI)という言葉は、市民権を根拠に、全国民に一律無条件に8万円程度の所得を生涯にわたり給付するというものですが、この言葉は最近は驚くほど広まりましたね。新聞雑誌でもよく見かけるようになって、そう言う意味ではもう異端思想でも何でもない。下手すると悪い意味で変な主流になるかもしれないという、そういう状況です。ただし、その割には中身が薄いという感じがしているんです。

私はこれまでBIについてかなり発言してきた人間で、私の講演などもインターネットにアップされて全国的にかなりの読者がいるようです。

ところで私はつい先日、当分BIについては発言しないと宣言しまして(本サイトのメールニュース・バックナンバー参照)、これがかなり波紋を呼んでいるようなんですがその意図をお話します。私はBIについてはこれまで経済論として議論してきました。それがいかに必要であり可能であるかという議論をしてきました。ただ、そういう議論をする段階はもう終わったのではないか。もうこれだけ言葉は広まったし、BIという言葉が何を意味するかは非常に多くの人がもう知っている。

それで今後はむしろ政治論としてBIを議論したいのです。BI論議を政治化すべき段階に来たと私は判断しているわけです。そのための仕掛けで一旦発言を中断することにしました。経済的なBI論議はもういいから、政治的な次元に議論を移行させるタイミングとして、世の中がもっとガタガタになってくるのを待ちたいのです。頃合いを見計らってまた発言を始めるつもりです。今日の話は、どういう風に私が今後BIの議論を私流に政治化して行くのか、そのひとつの皮切りになります。今日の議論を皮切りにして後しばらく中断の後、様子を見てまたいろいろ問題を提起しようと考えております。

そういうことで今日の話は、BIと言うよりももっと根本的なマネーの問題です。マネーはこれまで経済の問題として議論されてきた。しかしマネーは根本的に政治の問題なのです。政治としてのマネーという、それを今日の話の軸に据えたいし、そういう観点からマネーの改革を考えていきたい。通貨改革の一環としてBIと言うことを私は前から考えています。と言ってもこれは難しい問題じゃない。マネーというものについての考え方は2つしかない。

ひとつは生活のツール、道具である。これは私の立場であるし、たぶん皆さんもそう思われているでしょう。

もうひとつは権力のマジックの源泉としてマネーを偏愛する立場。それが今の持てる者、銀行なり富裕者なりの立場であります。そういう意味では、ツールかマジックかという、立場の争いがあります。

BIは政府通貨と結び付いて、これからお話するようにツールとして、生活の道具としてのマネーを実現するものです。今日はそういう観点から論じますので、BIは今日の話の「結論」として出てきます。ですから、講演のタイトルは「BIについて」なのに関はなかなかその話をしないじゃないかと、皆さんイライラされるかもしれませんが、ちょっと勘弁してください。その前提になる話を延々とやりますので、その点をひとつご承知願います。

なぜBIが必要なのか

そもそもBIの話をする前にですね、BIが必要になる根拠を考えましょう。それは我々が今置かれている経済状況がまさに恐慌だからです。恐慌はなぜ起きるのかということとBIの必要は密接に関係するので、まず恐慌の原因について話したいと思います。

ただ恐慌と言っても、久しぶりに豊橋から東京の都心に出て来てきまして、ちょっと街の様子を見ても恐慌という深刻な状況には見えませんね。東京の街はイルミネーションに彩られて相変わらず繁栄しているように見える。

日本の場合は確かにリーマン・ショックの間接的な打撃を受けた程度で済んでいるんです。日本の銀行は90年代にバブル崩壊で火傷したので、その後のマネーゲームに手を出す余裕がなかった。だから欧米の銀行みたいにマネーゲームに大規模に手を出していないので、帳尻の悪化ですんでいるところがある。経済状況で言うと、アメリカとEUはタイタニックで沈没寸前と言う状況ですね。アメリカなんか子どものホームレスだけで百何十万という。日本にもホームレスはいるけれど、ちょっと考えられないでしょう、そんな数。

日本はそれに比べると浸水ぐらいですんでいる。それもあって日本では経済危機に関しては間の抜けた生ぬるい議論しか見かけません。

しかし、やはり世界が恐慌状態の中で、日本だけが安全地帯ということはあり得ない。じわじわ、じわじわと世界恐慌の影響は及んで来るし、現に及んで来ています。東京にしたって、有楽町西武が閉店とか、次々に寂しい話が出て来ているわけです。ましてや地方に行かれたら、これが同じ日本かと思うほど荒涼とした光景があります。町全体が次第にゴーストタウン化している、そういう所もあります。

この恐慌の原因ですが、1930年代にアメリカを震源地にした大恐慌がありました。ただね、この前の大恐慌の場合は、あくまで金融メカニズムが、つまり資本主義の矛盾や欠陥がもろに出て来て恐慌になった。純粋に経済問題だったということがあります。

しかるに今私たちが体験している21世紀のこの恐慌は、ちょっと違っています。かつて1970年代にローマクラブ報告「成長の限界」と言う本が出て、世にたいへん衝撃を与えた事があります。あの本が証言したように70年代に資本主義は成長の限界にぶつかっている。資本主義の成長の限界だったのですが、先進各国の政府、銀行、大企業は、この事実をもみ消して、マネーゲームや生産拠点の海外への移転で袋小路の現実をごまかしてきた。

しかしどうもその限界の問題から逃れられなくなった。特に70年代以来、文字通りの経済のエネルギー源である原油の価格がどんどん高くなってきた。そういう長期的な資源と環境の危機が、今回の恐慌の背景になっています。それを背景に金融資本のグローバルな破綻が起きているわけです。

しかしこの資源と環境の危機という問題は、今日の話に直接には関係ありませんので、一応カッコに入れます。

恐慌はなぜ起こるのか

それで、恐慌の原因というのは3つに尽きるわけです。

1. オートメーション

どんどんオートメーションが進んで人手がいらなくなる。当然、いわゆる機械による失業で所得がなくなる人が出てくる。それだけじゃない。オートメーションで労働者がいらなくなれば、雇用されている労働者も賃金が抑えられて低くなってしまう。さらに今の生産の現場では、機械が主役で人間は雑用をしている。だから人間にはコンビニのレジみたいな、雑用と言っては失礼だけれども、低賃金の雑用の仕事しかないという状況があります。

オートメーションが進行すればするほど、雇用による所得に固執しているかぎり、所得はどんどん先細りになっていく。それによって市場もしぼんでいく。所得に裏打ちされた有効需要が減るのですから。

この問題が、生産と消費を均衡させるためには人々の所得に対して雇用以外の何らかの補強措置が必要である、という議論の根拠になります。オートメで言えば、日本はロボットテクノロジー大国でありまして、その点ではオートメによる打撃は大きいはずの国なんです。それはぜひ考えていただきたい。

2. 企業会計

それから企業会計。現代企業は膨大な設備投資を必要としています。しかも、競争に勝つためには絶えず生産設備を高度化していかねばならない。企業会計の中で設備投資に充てる費用がどんどん膨れ上がっていく。

それに反比例して、企業会計の中に占める勤労者の賃金給与は減っていきます。相対的に減っていく。

しかも、その勤労者の賃金給与だけが商品の購買力であるわけです。労働者、すなわち消費者でもありますから。ということで、企業はどんどん設備投資をやっても、それで大量生産した商品を企業で働いている労働者が買うことができないということが起きてくる。

その結果、所得不足による商品の販売不振と言うことで、これも経済危機の原因になる。とにかく商品の価格には設備投資費が上乗せされていて、これからお話するように、銀行への利払いがさらに上乗せされている。そういう上乗せされた価格の商品をますます低くなる給与じゃ買えない。そこで需要不足および販売不振による過剰生産の問題が、資本主義に付きまとうことになります。

こうして資本主義が順調に発展していくこと自体が、やがて恐慌を引き起こすわけです。恐慌はなにかが間違って起きるんじゃなくて、資本主義の必然なのです。

3. 銀行マネー

それから銀行マネーと言うことですが、今の企業は膨大な設備投資を必要としているので、どうしても銀行からの融資を受けないとやっていけない。町の小さな工場だって、何千万もする機械を買わなきゃいけない。そんなものは手持ちの資金では買えないので、銀行から融資を受ける。

こうして企業が絶えず投資するためには、銀行からの融資が必要なので、経済の95%は銀行が貸し出す銀行マネーで動いています。

私たちが普通お金と言うと、財布の中に入っていてスーパーのレジで払うようなものと思いがちですけれども、そういうマネーはせいぜい経済全体の3%位だと言われています。後は全部銀行マネー、銀行信用で動いているんです。

だから銀行がお金を貸す、貸さない、貸してくれるかどうかで、経済の在り方が決まってしまう。銀行がマネーフロー、お金の流れを取り仕切っているということをしっかり認識する必要があります。

で、銀行マネーの問題が3つあるんですね。

  1. 法定通貨
  2. 負債経済
  3. 利子

1. 法定通貨

昔はお金と言えばイコール宝物ということでもっぱら金銀のことだったわけですね。19世紀ぐらいまでは。それが20世紀に入ってから、どこの国でも法定通貨ということで、国家が法律によってお金と定めたものがそのままお金であることになった。具体的に言えば紙きれですよね。それが通貨であることになって、今、世界のたいていの国ではマネーと金(きん)は切り離されています。

この法定通貨というのは国が発行しているのではなくて、国が委託するようなかたちで、実際は私企業にすぎない銀行が発行しています。いまだに日本銀行は日本国の銀行だと勘違いしている人が多いんですけれども、日銀は基本的には私企業で、私企業として帳簿の公開もしています。要するに日銀は銀行業界の代表なのです。

だから日銀が経済状態が良いの悪いのと言っているのは、銀行にとって良いの悪いのであって、庶民の生活の浮沈には関係ありません。そして、銀行による銀行のためのマネーということで、日本銀行券という千円札以上のマネーを発行しています。

現代の大規模で複雑な信用経済が、金銀の呪物崇拝から法定貨幣に移行することは、不可避だったと私は考えます。しかし問題は、その法定通貨が私利で、私的利益、私的企業の儲けのために発行されていることなんです。生産や消費の実態など踏まえないで、銀行の儲けになるかどうかだけで発行されたり回収されたりしていることが問題なんです。

これはつまり、現代経済は根本的に無秩序だ、アナーキーだっていうことですよ。だから景気が上向くとか下向くとかいうのも、自然現象ではなく、このアナーキーの現れなんです。しかも、法定通貨なら金銀と違って紙切れだから、無制限に出せる。紙きれにお札の模様を刷ればいいんですから。それが非常に社会を混乱させる。

たとえば今の恐慌にしても、きっかけはアメリカのサブプライムローンという住宅ローンのバブルですが、とても住宅ローンを払いきれないような低所得層に5千万とか6千万円の家をローンで買わせる。銀行はいくらでもペーパーマネーを発行できるから、そういう危険なこともできる。

2. 負債経済

それから次に負債経済。現代経済は主に信用、すなわち時間差のある交換で動いています。だから、今すぐじゃなくて将来払いますよ、という約束でお金を借りられることは、とても大事なことです。

ただ問題は、先に言ったように銀行が自分が儲かるか儲からないかの基準だけでお金を貸して、それが我々を法的に拘束する負債になることです。人間誰だれだって借金は気が重くて嫌なんだけども、銀行にとっては人に借金させることがその資産になる。それだけでおかしいですよね。人の借金が俺のシアワセという。これはそれだけでどこかおかしいと思わなくてはいけません。

しかも銀行は、自分のそろばんだけで生産とか消費の実態の客観的な分析なしに貸しているから、返せない人が次々に出てくる。その時に銀行は、お前にまた貸してやるからそれでローンを払えと言う。ローンをローンで、負債を負債で払うということがザラにある。これで銀行の資産はさらに膨れ上がる。

そういう意味では、今の経済は負債経済ですから。もしすべての人、すべての会社が全ての負債を返しちゃったら、経済はその瞬間にストップしてしまう。崩壊してしまう。誰かが負債で苦しんでいてくれている、――― 誰かどころじゃない、大抵の人がローンで苦しんでくれている。そのおかげで経済が動いている。これは異常な経済ではないか? しかも、経済が倍々ゲームで一時的に成長している間は、負債をある程度返せるからいいんですけど、一旦それが揺らいでくると、経済は積み重なった負債で身動きできなくなる。

日本の90年代以来の経済の低迷は、バランスシートリセッション、バランスシート不況と言われている。要するに企業が借金だらけで動けない。借金を返す方が先になって、とても新規投資をして、人を雇って、新しい商品を売りまくって、なんていうことをやる余裕がない。借金漬け経済ということが、日本の今のデフレの根本です。でも日本は、個人や家庭にさほど借金がないからまだいいですよ。アメリカが悲惨なのは、クレジットカード社会なので、個人が借金につぶされちゃっていますから。

銀行にとっては人の借金が自分の資産だから、いざとなったら差し押さえでも何でもやる。今、アメリカではどんどこローンを滞納した住宅を差し押さえていて、ホームレスが何100万人も生まれています。それが負債経済というものです。

3. 利子

そして、銀行マネーの一番の問題点は利子の存在です。負債の場合なら、ラーメン屋を開店するために1千万借りたけれど、商売が予想どおり当たって、繁盛して返せました、ということもあるでしょう。それなら負債にも生産的な意味があったことになる。だが利子と言うのは実体経済の中に何の根拠もない。

では利子を払う金はどこから持ってくるのか。負債の場合は負債に見合うだけの儲けがあるかもしれないけれど、それにさらに利子がプラスされることには何の根拠もない。しかも場合によっては、それが複利でものすごく増えていくわけですよ。だから住宅ローンなんて、最後は利子分の方が元本よりも大きくなっちゃうでしょう? 根拠のないお金を銀行がふんだくっているわけですよ。

で、どうするかというと、人からもぎ取ってくるしかない。詐欺や犯罪みたいな事をしないと利子は返せません。そんなことをしないで利子を返すためには、また借金をして多重債務者みたいになる。そういうことが今の資本主義国では普通なわけです。結局利子とは何かといえば、要するに、お金を持って貸し付けている銀行とその株主などの経済強者にお金が移動するということです。持たざる者から持てる者にお金がどんどん吸い上げられ、利子のせいで富が富裕層にさらに集中するのです。

皆さんは、「俺は借金なんかひとつもしていないから銀行経済には関係ない、利子も関係ない」と言われるかもしれない。しかし、会社にいて給料をもらってる場合、たいてい企業が銀行から借りたお金がそこに入っています。

しかもそのお金で商品を買うと、その価格の3分の1から半分は利子だと言われています。直接と言うことじゃなくてね。たとえばトヨタが車を作る場合、何百という会社がトヨタに部品や材料を納入しています。そういう会社がみんな銀行への利払いを抱えている。それを全部集計すると最終的に商品価格の3分の1から2分の1が利払いということになってしまう。

BIをかりに実施しても、それで商品を買って銀行に利子を払うんじゃあ、BIっていったい何なんだろう。そういうわけで、無人島にでも行かないかぎり、現代人は銀行経済の魔手から逃れることはできません。

部分準備制度と信用創造

そしてこの法定通貨、負債経済、利子という要素は、銀行マネーの根本原理である「部分準備制度」がはらむ問題を、危機的に増幅させるのです。この制度は、銀行はその貸付に対しては部分的な準備=預金があるだけでよい、とするものです。つまり銀行は全預金者が一斉に預金を引き出したりする恐れがないのをよいことに、預かっている預金の八倍から十倍の金を貸し出しているのです。こうして我々が預金した一万円が十万円に化ける。差額の九万円は、銀行がパソコンのクリックひとつで何の対価も労働もなしに無から創造したもので、負債となり現実の金となっていずれ利子付きで銀行に戻ってきます。そしてこの九万円が回りまわって別の銀行に預金されれば、それはまた十倍のカネになります。こうして部分準備制度はインフレの恒常的な原因になり、実体経済が負債で揺らぐと、銀行マネーは今度はデフレの原因になります。

銀行によるこの無からのマネーの創造は「信用の創造」ということですが、もちろん現代経済に信用は不可欠です。だが問題は、銀行が本来、公共的社会的な意義をもっている信用を私企業として私的利益の目的で横領し独占していることなのです。そしてこの独占を確実にするために、大銀行はカルテルを作り、そのカルテルが「中央銀行」と呼ばれているのです。言うまでもなく、この部分準備制度による銀行信用の創造と、それによる融資=通貨の供給が経済的アナーキーの根本原因です。

多くの人は銀行を大きな金庫のようなものと勘違いしていて、銀行がマネーフローを取り仕切っているということを理解していません。だから自分の預金は銀行の金庫に保管されていて、それをATMで引き出しているのだと思い込んでいる。だが実際は預金は銀行が作り出すマネーフローの中に消えているのです。それでも我々がATMで預金を引き出せるのは、銀行に次々に新たな預金が入ってくるからです。だから銀行は、ネズミ講みたいなことをやっているわけです。例えばですが、詐欺師の集団がいて偽札を作り、しかもそれでネズミ講をやっているとします。誰でも「これはひどい話だ」と思うでしょう。しかし銀行がやっていることは、この詐欺師集団とあまり変わらないと思います。

とにかく、こういうかたちで経済を銀行が勝手に取り仕切っていると、結局銀行は経済を窒息させてしまう。

恐慌の原因、まとめ

では、なぜこの経済はリーマン・ショック以前にもっと早く窒息しなかったのか。思うに、戦後長らく銀行マネーのトリックが破綻しなかった背景には、石油という魔法の資源が水のように安かったということがあるのではないでしょうか。そのおかげで資本主義の矛盾をもみ消したり先送りしたりできた。それが70年代からじわじわと原油の価格が上がってきて、とくに今世紀に入ってから急騰してきた。それを背景として、銀行マネーのトリックが全面的に破綻したと言えるように思います。

それではここで、恐慌の原因についての話をいったんまとめます。

まず、オートメ化と企業会計の矛盾が需要不足と過剰生産をもたらしますが、これはまだ不況の状況です。不況なら、「企業の在庫調整でそのうち景気が回復するから、それまでの間、政府は雇用対策をやれ、企業は賃上げをやれ」などと、のんきなことを言っておられる。だが、不況に出口がなく、遊休化した過剰資本が投機に向ったあげくバブルが弾け、銀行マネーの機能がアクセルからブレーキに一転して、経済全体が銀行への負債で身動きできなくなる。これが恐慌です。恐慌とは銀行マネーの問題点がはっきり表面化したもので、銀行マネーによる経済の窒息死です。

アメリカで住宅バブルが弾けたことをきっかけに起きた今の世界恐慌は、その意味では銀行マネーのグローバルな最終的崩壊、ハルマゲドンです。天文学的な額のマネーゲームをずっとやってきたせいで、世界の金融資本が抱える負債の総額は人類社会全体のGDPの十四、五倍に達すると言われています。こんな負債を返せる筈がありません。世界の大手銀行はすべて、破産の実態をあの手この手で誤魔化して生き延びているゾンビ銀行です。だから各国の政府やマスコミが垂れ流している、「もう少し辛抱すればトンネルの出口が見えてきて景気は回復する」という言辞はまったくのデマです。この銀行の破綻に加えて、いわゆるピーク・オイルの問題があります。国際エネルギー機関によると、世界の原油生産は2006年にピーク(原油増産の限界点)を越したとみられるそうです。だからもう1960年代のような経済成長はありえないのです。

日本でもアメリカやEUでも、今、各国の政府がやっていることは、恐慌という現実を否認してそれを不況にすりかえることです。そして「これは不況なんだから従来の不況対策を徹底すれば間もなく景気は回復し経済はまた成長する」と言い張る。そして、ゾンビ銀行が生き返れば問題はすべて解決するとして、必死になって国民の血税で銀行を救済している。危機の原因である銀行を無くすどころか強化しようとしている。こうして政府が銀行の手先としてあれこれ策動するために、恐慌はますます破局的なものになっています。

「政府通貨」の発行

これまで述べてきたように、不況が大恐慌に転化する根本原因は、銀行マネー、銀行信用です。ですから銀行マネーを経済と生活の信頼できるツールであるような別のマネー、別の通貨システムに置き換えないかぎり恐慌は解決しません。それは「政府通貨」の発行ということです。政府通貨は四つの点で銀行マネーと異なり、それと正反対の性格をもちます。

  • まず第一に、「政府」という言葉が示すように、それは公共の福利、社会全体の利益のために発行されます。具体的に言えば、それは、経済が滑らかに回って安定するよう、自由な交換の手段としての通貨を、社会に過不足なく供給することを目的に発行されます。

  • 第二に、銀行はその商売の道具である銀行券をアナーキーに発行しますが、政府は通貨の管理を公益事業として行い、水や電気のように社会に必要な通貨を供給します。ですから政府通貨に利子は付きません。

  • 第三に、政府通貨による融資にも返済が必要ですが、これは発行されて交換の促進という役割を終えた通貨を回収して、経済の正常なサイクルを維持するための措置、通貨の過剰供給によるインフレの発生を予防するための措置です。乗客が移動という目的を達成したら、降りた駅で切符が回収されるのと同じことです。だから政府通貨による融資は、当座貸し越しです。それは、返済が法的義務で担保を差し押さえられることもある銀行マネーの負債ではありません。

  • 第四に、銀行が損得勘定だけでアナーキーに融資するのと異なり、政府通貨は国民経済計算のできるだけ客観的なデータに基づいて、社会の必要に応じて供給されます。データに誤差があって経済がインフレ気味になった場合には、通貨政策をすぐに修正すればいいのです。

そして政府通貨による恐慌の解決には、すでに立派な先例があります。1930年代の大恐慌に見舞われた時、日本とドイツだけが政府通貨の発行に踏み切ったのです。その結果、恐慌は2、3年で解決しました。ところがアメリカは、悲惨な大戦が生んだ軍需ブームによってしか恐慌を克服できなかった。この日独の実例が広く知られると銀行資本にはまずいので、政府通貨の発行はファシズムのやることだという議論が出回っていますが、これはぜんぜん事実ではありません。日本で国債の日銀引き受けというかたちで政府通貨の発行をやったのは高橋是清(これきよ)で、インフレになると軍拡に反対して軍人に暗殺された人です。もちろんファシストなどじゃない、偉大な人です。

ドイツのシャハトは、これも金融のエキスパートで、彼の場合はヒットラーに全権を与えられて金融改革をやって、ヒットラーは一切口出ししなかった。だから銀行家として一番合理的と考える通貨改革をやり、ワイマール期の、パン一つ買うのに大八車一杯の紙幣を持っていく必要があったハイパーインフレをたった3年で解消し、ドイツをヨーロッパ最強の経済に立て直した。シャハトもまた軍拡に反対して、最後は強制収容所に送られました。だから政府通貨の有効性は、とっくに証明済みなんです。そこで、マネーフローを人々が往来する大通りにたとえましょう。大通りでは人々は自由に往来できて当然です。ところが、私企業が通りのあっちこっちに勝手に関所を作って通行人から通行料を取ったら、誰でも怒るでしょう。しかし、銀行がマネーフローで関所を設けて金を巻き上げていることには怒る人がいない。これは不思議です。これに対して、あくまでマネーの順調な流れを維持すること、それが政府通貨の課題です。

ついでに言うと、政府通貨の発行には税収の裏付けなんか必要ないんで、それで国家予算を編制する場合には国家財政の財源という問題はなくなりますね。社会に必要なものを見極めて、正しい国民経済計算をやって、それに基づいた通貨供給をやっていればいい。電力や水の供給と同じ問題です。

この政府通貨によってBIを保証することが、経済の流れをスムーズにするためには理想的ですが、これは後でお話しします。

「租税国家」とは

ところが政府通貨の発行に対しては、実は重大な障害があるんです。

現代国家は「租税国家」である。皆さんは租税国家という言葉は聞きなれないと思いますので、これから詳しく説明します。国家というものは、昔の左翼の発想だと暴力装置だということになる。国家を国家たらしめているのは暴力の独占である。そういう要素も少しはあるけれど、国家の国家たる根本は税金です。モナコは税金がなかったかな。しかしあれは代表的な例とはいえない。やはり国家たるものは、税金を取ってそれを国民のためと称して使う。そして税金が絡んでくると、まさにマネーの問題が政治の問題になってくるんです。

それでは、租税国家というのはどういうものか。江戸時代の年貢は、本当の意味での税金とはいえない。幕府や藩がぼったくっているだけで、見返りの行政サービスなんてないわけですから。それから戦前、大正時代の初めくらいまでは選挙が制限選挙と言って、富裕な納税者でなければ選挙権がなかった。当時は、国家はお金持ちクラブのようなものと思われていたんですね。庶民は高い税金を払う必要がない代わりに、何もしてもらえなかった。年金も健康保険も何もない。

先進諸国で租税国家と言えるものが完成されたのは、第二次世界大戦後のことです。それはどういうことかと言いますと、この国家は税金を誰からもくまなく取る。その代わり、ちゃんと税金でサービスをしますという建前になっている。だから消費税となると、ホームレスの人でさえ商品を買えば税金を納税している事になります。納税しているんだからホームレスの人も面倒をみるべきだ、ということになりますが、そういうかたちで誰からも税金を取るけれども、それは行政サービスとしてちゃんとお返ししますと国は約束する。

そして、戦後にできたこの租税国家が存立する前提となっているのは、経済成長です。

経済成長モデルに立脚する租税国家

この国家は、永続的な経済成長を制度の前提として設計された国家です。市民から強制的に税金を徴収する。所得税なり消費税なり。しかし税収は、直接間接に、経済発展の条件を整備するために使われる。そして経済発展で国が豊かになれば、国の市民へのサービスが拡大し、福祉国家が充実してくる。強制的に税金を取られても、結果的には、それによるサービスや福祉の拡充で市民にとってプラスになるとして、税金が正当化されているわけです。そういう見返りなしには、国が強制的に市民から税金を取る根拠がありませんから。

そして、経済の低迷で国家予算に見合うだけの税収がなかった場合には、しょうがないから国債を銀行に買ってもらい、赤字を埋めるということになりますが、これは本当はおかしい。

国や自治体は、企業みたいに投資による事業の拡大を目指しているわけではない。それがなんで、銀行に借金して利子を払う必要があるのか。現に、日本の法律では、基本的に赤字国債の発行は禁止されている。建設国債は認められていますが、赤字国債の発行は本来違法なんです。ということは、国債の発行は、国が財政的にピンチになった場合の、あくまで臨時的、一時的、例外的な措置だということです。

そして国債を発行すること自体、将来、経済が成長をして増えた税収で借金を返せるという前提があってのことです。ところが、1970年代以降、先進国はどこでも低成長経済になって、税収不足が恒常的になり、それでいて福祉の拡充を求める世論は揺るがない。ですから先進国はどこでもタブーを破り、赤字国債を発行するようになった。その結果、銀行に対する国家の借金がどんどこ増えて、国家予算のかなりの部分が銀行への利払いに充てられるようになった。これは全く不毛な支出です。税金はいろいろなことに使えるはずなのに、利払いでは何の意味もない。国が自由に使えるお金が減るだけです。

政府はなぜ銀行を救済したのか

ところで、日本政府は90年代、バブル崩壊後に破産寸前になった銀行を、公金を投じて助けました。なんで、地上げ騒動などで世間に大迷惑をかけたあげく、窮地に陥った大手銀行を納税者が助けてやる必要があるのか。

こんな不条理な措置を、自民党政府が世間への釈明もなしにとったのも、実は租税国家と銀行マネーは一体のものだからです。先に申し上げたように、銀行に任せておくと、銀行は社会にどんな混乱が起きようが悲劇が起きようが知ったこっちゃなく、自分の損得勘定だけで融資しますから、社会はきわめてアナーキーな不安定な状態になる。そんな混乱が拡大すると、最後には銀行自身も危なくなる。それで銀行マネーとは別の通貨流通システム、マネーフローを作り、それで銀行マネーの支配を補完することが必要になる。あくまでも銀行マネーに従属し、そのサブシステムとして機能する、人為的な、政治的なマネーフロー。それが税金だということです。

だから税金をマネーフローとして考察することが必要です。公共の福祉が課税の建前になっていますが、税金は赤い羽根の募金じゃない。銀行の矛盾を覆い隠してごまかして、銀行の経済支配を補完することが現代における税金の役割です。

そしてリーマン・ショック以来、先進各国の政府はそろって、マネーゲームの破綻でゾンビ化したメガバンクを公金で救済しようとしました。税金というマネーフローは、銀行のマネーフローを補完するためのサブシステムと考えれば、これはある意味で当然なんです。だいたい銀行は昔から影の政府だったのですが、これがリーマン・ショック以来、アメリカやEUでは正体を現して表の政府になってきている。アメリカの今のオバマ政権は銀行政権というしかない。ウオール街の金融マフィアみたいな連中がホワイトハウスの経済政策担当になって、ウォール街とメガバンクの利益のための政策をどんどこやっています。そういう意味で、今や先進各国の政府は銀行の代理人にすぎません。今の政府は何をやっても失敗していて、事態を悪化させることしかしていないのに、銀行の代理人の役割だけはちゃんとやってるんです。よく見ていただきたい。

アイスランドと、ギリシャ・アイルランドとの財政破産の違い

たとえば今、EUでは、ギリシャとアイルランドが財政的に破産ないしは破産寸前というので、ECBヨーロッパ中央銀行が、巨額の支援の融資をしました。しかし、あんな支援は毒まんじゅうを食わせるようなものです。つまり、ぜんぜん両国民を助けるための融資じゃなくて、アイルランドとギリシャに貸し込んでいるドイツ、フランス、その他のヨーロッパの大手銀行と、その株主や両国の国債の保有者を助けるための融資です。

しかもその融資にきわめて高い利子が付いている。だから負債でつぶれたギリシャ、アイルランドがさらにまた負債を抱え込み、しかもそれで当座なんとか浮かんでいられるだけなのです。それがEUによる救済の内幕で、銀行が生き延びるためなら社会や国家が滅びようがなんだろうが知ったこっちゃない、という状況が生まれています。もうギリシャもアイルランドも孫の代までもみんな、銀行に借金を返すためだけに生きているような国になってしまうでしょう。さらに債権者の銀行のご機嫌をとるために、ギリシャとアイルランドの政府は経済がどん底なのに大増税と超緊縮財政をやっている。この二つの国では、若者が将来に見切りをつけてどんどん外国に移住しているようです。まさに亡国です。

その点、救いはアイスランドです。アイスランドは、銀行が勝手に国のGDPの11倍もの規模のマネーゲームをやったあげく、ご存じのように国家的に破産した。しかしここでは、国民投票で銀行救済を拒否した。具体的に言うと、アイスランドの銀行が資金源だった外国に対して抱えている負債を、国ぐるみで踏み倒したのです。その結果、経済はたいへん厳しい状態ではあるけれど、マネーゲームに責任がない一般国民が銀行に利子と負債を払いつづける必要がなくなった。

この債務不履行の結果、アイスランドのクローナが暴落した。だが、暴落した分、タラの塩漬けなんかを安く輸出できるようになって、経済が持ち直してきている。失業率も大方のEU諸国より低い。状況はひどいけれど、とにかくやっていけるし、アイスランドは再建できるという希望が生まれてきている。その点、ギリシャとアイルランドにはまったく希望がない。それなら、一時的にはどんなに苦しくても借金を踏み倒しちゃえばいいじゃないか。それをやらない。そこが根本問題なんです。

銀行がギリシャやアイルランドにさらに増税だの緊縮財政を強要したら、経済はさらにじり貧になることは誰でもわかります。でも、銀行は政府に対するそういう強要をやめない。結局、銀行の帳簿のつじつまが合っているかどうかだけが問題なんで、その結果が実体経済にどういう影響を与えようが知ったことではない。銀行としてみれば、わかっちゃいるけどやめられないんです。政府の方もですね、租税国家は経済成長を前提に設計されていますから、こういう状態になっても、必死にがんばればトンネルから抜け出てまた景気回復がある、まず銀行を救おう、という発想でやっている。その結果、ますます断崖からまっさかさまみたいな状態になってきています。

租税国家から社会信用国家へ

それではなぜ経済成長が必要かというと、これは要するに利子の問題があるからです。そこそこ食っているだけじゃ、絶対、銀行に借金を返せないから、経済規模を拡大することで利子を返さなきゃいけない。利子つき負債の銀行マネーが経済成長の論理を生み出すのです。

福祉国家の延長線上でBIを考えて、福祉と同じく消費税なり所得税なりの税収を財源にBIをやればいいという議論が、日本ではまだ主流だと思います。私はそう言っている人の揚げ足を取るつもりはないんですが、現実には租税国家の解体がどんどん進行しています。先進諸国ではもう景気の回復や経済成長はありえないので、税収は先細りになるばかりで、今後は福祉、社会保障支出の大幅削減が予想されるし、アメリカでは財政破綻した自治体が教師、警官、消防士などをまとめて解雇し、治安がひどく悪化している例もあるそうです。

租税国家と銀行マネーは一体なのですから、恐慌で銀行マネーが崩壊すれば、それに伴って租税国家の解体が進行する。具体的に言うと、政府が増税しても税収は落ち込む一方だし、赤字国債を発行しても買い手がつかず、税収の大半は銀行への利払いに充てられ、最後には国家予算の編成自体が不可能になるという極限的事態もありうるわけです。こういう国家の自殺を回避する方策はただひとつ、銀行券を政府通貨に置き換え、政府通貨を土台にして国家体制を再組織するしかありません。

そこで、経済を滑らかに回すためにー ―― 負債にも利子にも関係がない ―― 切符のような純粋な交換の手段として政府通貨が発行される、そういう政府通貨によって経済が動く国家を私は「社会信用国家」、ソーシャル・クレジット・ステイトと呼びたいと思います。

ソーシャル・クレジット・ステイト

この国家においては、国民経済の正確なデータに基づいて、必要なだけの通貨を経済に供給することが国家の仕事、その国家信用局の仕事になります。これは気象庁の天気予報のような基本的に技術的な作業です。このように国家の仕事は「信用の管理」になるので、税収を基に国家予算を組んで支出するという、会計としての国家財政というものはなくなります。もちろん国債発行の必要もなくなります。そして当然、財務省も廃止されます。ただ、税金は自治体レベルで部分的に残ってもいいでしょう。例えば、ある町が市民の合意に基づいて、景観保存税を設けるといったことです。

政府通貨の企業への融資については、様々なシステムが考えられます。とにかく国民生活や地域社会に必要不可欠な仕事をしていると公的に認められた企業には、政府通貨が融資されるでしょう。それから日銀と日銀券は廃止されても、地域の銀行は存続が認められるでしょう。だから政府通貨がカバーしない、例えば趣味的な商品を扱っている企業などには、そういう商業銀行が融資する。ただ諸悪の根源である部分準備制度=銀行による私的でアナーキーな信用の創造は認められません。あくまで手持ちの預金だけを貸し出してその手数料でやっていくことが銀行の営業条件です。もっとも、イスラム銀行のように、事業が当たった場合には資金の借り手と銀行が儲けを折半ということは、あってもいいかもしれません。

だが以上とは別に、国家には教育、医療、福祉、国防、その他の資金となる国庫への収入が必要です。税金のかたちをとらずにそういう収入を確保する必要がある。そこで、私は以前の講演で提案したのですが、企業への融資に1~2%のごく低い利子を付けたらどうか。利子という言葉がまずいなら、融資手数料と言ってもいい。政府通貨による融資は国民経済の大動脈をなすものですから、これによる国庫への収入は膨大なものになる筈です。これは、政府が銀行と同じ金貸し業をやっていることを意味しません、そうではなくて、これは企業経済の繁栄が、そのまま国民生活の安定と充実につながるような連動装置を設けることなのです。

政党政治と租税国家

ところが租税国家を社会信用国家に変えようとするや、その最大の障害として現れてくるのが、議会制と政党政治なのです。議会なるものは租税国家の一環をなしている制度であり、だから議会政治の中身といえば、国家予算の編成をめぐる政党間の争いや駆け引きや取引です。税金の取り方、使い方そして昨今は国債発行額の限度といった事柄で政党が争っている、それが議会というものです。ですから租税国家が社会信用国家に変わったら、議会と政党はすることがなくなってしまいます。そもそも会計としての国家財政というものが消えてしまうのですから。

政党とは何ですか。それは租税国家を前提にして、それを自分たちのグループにできるだけ都合よく利用したい連中が、他のグループと争うために徒党を組んだものです。

政党はそういうグループや個人の野心で動いているから経済全体の分析なんかどうでもいいんです。銀行が経済全体の事なんか考えずに融資しているのと同じです。政党と政治家は次の選挙で勝って権力を握れるかどうかだけで動いている。そういう意味では銀行は貪欲を動機として動いており、政治は野心や名誉欲を動機として動いている。人間には野心や名誉欲も必要でしょうが、それで経済を動かされては困るんです。

いずれにせよ社会信用国家が生まれたら、大手都市銀行と政党は存在理由がなくなる。だから銀行と政党は、こういう方向での社会の変革には死に物狂いで抵抗するでしょう。しかし銀行マネーの崩壊と租税国家の解体が進行すれば、そうした抵抗の基盤がどんどん崩れていくことも事実です。

議会制と政党政治は政府通貨とは相容れないと、今、言いましたが、あえてですよ、議会制の枠内で政府通貨が発行されたらどうなるか。それに近い例は中国の人民元です。人民元は変な意味での政府通貨で、銀行マネーならぬ党派マネーです。やはり利子付き負債のマネーですが、中国共産党の独裁支配の道具です。中国では党が銀行に命令します。だから、人民の福祉も社会の安定も生産も消費のバランスも考えておらず、共産党の権力を守れるかどうかの観点だけで融資されている。昨今マスコミは、中国は未来の超大国などというヨタ話を垂れ流しています。冗談もいい加減にしてもらいたい。党派マネーで動いている国にまともな経済発展などありえません。

実際、中国経済の歪みや政府の無茶苦茶な景気刺激策が生んだバブルは凄まじいようで、投資目的で建設され誰も住んでいないマンションが全国に200万あるとか、そのような状態です。

自治体の連合体としての国家

ところで先程から政府通貨と言ってきましたけれども、これは銀行が発行する通貨と発行主体を区別して政府通貨と言っているわけです。通貨の性格で言ったらパブリックマネー、公共通貨と言えるでしょう。この場合、政府通貨における政府とは何を意味するのか。選挙で勝った党派とか、武力クーデターで権力を握った党派とかを意味することはあり得ない。

ここで「政府」とは、社会契約に基づく全人民のしっかりした合意を意味しているのだと思います。政府は人民相互の合意を象徴する存在であるべきです。社会契約とは、社会に参加する以上は人を傷つけるようなことはしませんとか、自分の利益がみんなの利益に一致するように努めますといった、基本的なことをすべての人がすべての人に対して約束することです。

そうならば、政府通貨発行の条件は、その発行と使途の公共性、それが公共の利益に即しているかどうかについての全人民の合意ということになります。そうすると、政府通貨の発行に際しては、国家予算の編制の徹底的な民主化が必要になるでしょう。誰も排除されてはいけない。すべての市民が国家予算の編成に参加する。そうでないと本当に信認されて安定する通貨は発行できない。してみると、政府通貨と国家予算編成の徹底的な民主化は一体のものなのです。しかし、この予算編成の民主化、全人民の討論による予算編成など、可能なことなのでしょうか。

これは論理的には簡単にできる。つまり中央銀行と並んで中央の政府も廃止すればいい。国家を自治体の連合体として再組織する。そして、自治体が市民も参加してその予算案を作る。市民参加の予算作りはブラジルで始まって、日本でも埼玉県の志木など実験的にやっている自治体があります。(ただ自治体連合としての国家といっても、外交や国防などのナショナルな事柄はどうするかという問題があります。これは例えば、自治体の首長が協議会を作り、その成員が互選で「内閣」を組織するといったことなどが考えられるでしょう)。

そういう市民参加で各自治体の予算案を作って、それを中央の国家信用局に上げる。そして国家信用局は全国から集まってきた予算案を国民経済計算のデータと照合しながら調整し、統合して、国家予算を編成し、それに従って通貨を供給すればいい。この場合、国家信用局の課題は調整と統合およびインフレの予防です。通貨の過剰供給によるインフレが発生することがないよう予算案を審査し、必要なら自治体の同意の下にそれを修正する。ただし予算案の中身には立ち入らない。もし市民がおかしな予算を作って問題が起きたら、そのツケは市民自身が払って、将来への反省材料にするべきなのです。以上は体制転換の精密な青写真などではなくて、こういう考え方、やり方もあると、例を説明申し上げているわけです。

中央と地方

このようなかたちで、全人民の討論による国家予算の編成が可能になります。この方式なら、国家予算で何を優先するのか、教育か医療か福祉か国防か、そういうことも常時国民投票をしているのと同様な形で決めることができる。そして予算がつくというかたちで国民の選択が明確になるわけです。今の話を聞いて、これは結構だが革命的ユートピアじゃないかとおっしゃるかもしれません。しかし国家予算編成の民主化について、私は悲観していません。確かに、今、私が提示した方式はラディカルすぎる。すぐに実現できるものではない。しかし租税国家が解体する中で、議会も政党も中央の官僚制も、もうまともに機能していません。皆さんもそう思うでしょう? 今の国会なんか、程度の悪いナンセンスギャグコメディーみたいなものです。

国家は機能不全の状態。これは深刻な問題ですよ。日本の財政はアメリカやEUよりはまだ破綻までに時間的に余裕があると思いますが、このままほっておくといずれは、年金も、健康保険も、全部なくなっちゃうかもしれない。

そしてこの状況の中で、市町村から道府県に到る自治体が、国民生活の危機と転換の焦点になってきていると思うのです。その理由は、国と地方では財政の事情が違うからです。国の場合は財政が火の車になったら、日銀=銀行業界に懇願して、景気刺激策や赤字国債発行で多少は渋々協力してもらえることがある。しかし地方にはそんな日銀とのパイプなどなく、財務省の言いなりです。地方は90年代のバブル崩壊後に、国に景気対策として地方債による公共事業をやらされた。今その巨額のツケが回ってくる中で、税収がどんどん落ち込んでいる。しかも地方自治体は中央の政府と違って住民に密着していますから、福祉切捨てなどやたらに不人情なこともできない。アコギなことをすれば、すぐに首長の評判にはね返る。こうして自治体は、破綻した国家財政と住民の間で板ばさみになり、身動きできない状態です。そのうえグローバリゼーションによる地域経済の衰退や地域人口の高齢化など、国政のツケもすべて東京以外の地方に回されています。

それゆえに、現在の日本では中央と地方の間に活断層が走っていて、それが今後のこの国の政治の震源になりそうです。これからは地方自治体が日本の政治の焦点になってくるでしょう。だから我々としても、国政選挙なんか放っておいて、自分たちの住んでいる地方自治体の尻を叩く必要がある。もしも自治体が、財政が苦しいから、例えば保育園への補助金を打ち切るとかそういうことを言ってきても、頑として認めないようにする。「子どもたちが健やかに育つためには、優良な保育園が絶対に必要だ。財政のことはそっちで考えろ」と、徹底的に分からず屋として抵抗して、自治体を追い詰める。自治体が追い詰められて、国家に八つ当たりしていくように仕向けることが必要です。とにかく、自治体の財政事情に対して物分りがよくなってはいけないと思います。むしろ要求をどんどん出していくぐらいのことが必要でしょう。

自治体銀行 ―― 段階的な戦略

それはとにかく国家を自治体連合に再組織するというのはラディカルな案で、すぐには実現しない。それでは、段階的に社会信用国家を作っていく手立てはないでしょうか。ここでまず必要なのは、日銀と財務省をバイパスするマネーフローを作ることです。住民の利益に、必要に答えるような、マネーフローを設計する。

自治体の懐は苦しいけれども、自治体はそれぞれ、山野だの、名所旧跡だの、公共の建物だの、様々な資産を持ってます。そうした自治体の持っている資産を裏付けにして、各自治体が資金を……出しあって、全日本自治体銀行という公立銀行を作ったらどうか。この銀行はあくまで公共の福祉のための銀行ですから、教育とか福祉とか地域社会の安寧と繁栄に必要なものに優先的に融資する。地元の地域社会で重要な役割を果たしている地場産業、中小企業に融資とか。一応、利子は取ります。政府通貨じゃなくて日銀券を使っていますから。ただし低利子で、しかもこの利子収入は、そのまま自治体の収入になります。今みたいに経済が低迷している時には、こういう利子収入は自治体にとっては非常によい財源になる筈はずです。それから、この銀行で働くのは自治体の公務員で、その職務で特別に高い給与をもらう訳ではありません。

そしてこの公立銀行は、銀行の部分準備制度を公共の福利のために活用すればいいのです。全国の自治体が懸命に資金を集めても、100億円くらいにしかならないかもしれません。しかし、今、言ったように部分準備制度を応用すれば、これが800億とか1,000億になって地域社会に融資できます。

自治体の公立銀行の実例としては、現にアメリカに北ダコタ銀行という州立の銀行がありまして、これが非常に成功している。この銀行は、かつて東部の銀行資本と戦った西部の農民運動が生んだ銀行です。地元の地域経済発展のために、公共的な意義のある融資をやっています。その収入は北ダコタ州の収入になります。今、アメリカの州や都市の多くが破産状態ですが、北ダコタ州は黒字で、失業率も全国でいちばん低い。

この自治体銀行は、地域の銀行とは協力し協調する必要もあるでしょう。北ダコタ銀行もそうしています。ただ、大手都市銀行は自治体銀行に対して、「営業妨害だ」と激しく反対するでしょう。それなら我々は逆に「大手銀行はこれまで何をしてきたのか」と問い詰めればいいのです。大手都市銀行は潰れた方がお国のためです。

もし全日本で自治体銀行を設立してうまくいったら、次のステップに進む。今度はいよいよ通貨を発行する。政府通貨に等しいものを、日銀と財務省をバイパスして発行する。ただ、日本国の法律では日銀が法定通貨を発行するので、それ以外には誰も通貨を発行できないことになっています。しかしこの問題は言い逃げてしまえばいいんです。これは通貨ではなく証書です、人が働いて物やサービスを生産したことを証明する証書です、と言い張って、それを実際は通貨として流通させてしまえばいい。そういう証書の流通によって経済が一気に回復したら、財務省や日銀も文句をつけにくいでしょう。

そういう自治体財産証書みたいなものを発行し、自治体がそれを梃子にして日銀と財務省をバイパスした地域自治体連合経済を作っていく。こういうことをやらない限り、租税国家は追い詰められて、増税と緊縮財政を繰り返して自滅するだけです。

社会実験を促進するためのBI

ここでようやくBIの話になります。というのも政府通貨が根本的な課題で、政府通貨が実現したら、BIはお茶の子さいさいで出来てしまうからです。まず、BIの財源の問題がなくなります。そして銀行マネーが消滅し、利子付き負債の返済が経済を動かすことがなくなると、経済成長、GDP(経済規模)の拡大はもう国や企業にとって至上命令ではなくなる。そして政府通貨の安定した流通を実現するためには、生産と消費が均衡することが望ましいと考える人々が増えるでしょう。その結果、政府通貨でBIを保証することこそ、政府通貨のもっとも有効な使い方だとする世論が高まるでしょう。

そういう意味で、BI実現のためには、まず政府通貨という第一のハードルを突破しければならないと、私は考えているのです。その上で、BIについて二言ばかり付け加えたいことがあります。まず第一に、BIは福祉の延長線上にあるものではないことはおわかりだと思います。逆にいえば、仮にBIが実現したからといって福祉は切り捨ててもいいということにはなりません。BIと福祉は、本来、目的も意義も異なるものなのです。

私の考えでは、BIを求める世論の高まりは、今の社会が巨大な実験をしようとしていることに関係しています。冒頭で申し上げたように、今後、我々はゼロ成長経済の中で生きていくしかありません。ところが現代社会では、経済も国家も成長を前提にしたシステムとして作られている。教育もそうです。そしてゼロ成長やマイナス成長社会をどうしたら作れるのかは、はっきりいって誰にもわからない。結局、そういう新しい社会は、すべての人が生活者として実験し、模索する過程の中から、徐々に生まれてくるのでしょう。そうした実験的な生き方を可能にするところに、BIの深い意義があると私は考えています。

具体的な例を上げると、今の就職超氷河期で必死に就活して、100社回っても全部はねられた、そんな思いをするくらいなら、以前から関心があったし、地方で有機農業をやってみようか、と考える若者はかなりいるんじゃないでしょうか。

といっても、都会人が一人前に農業をやれるようになるには、だいたい10年はかかりますよ。

しかしBIがあれば、ライフスタイルの転換は極めて容易になる。安心して農の修業ができる。それから経済成長ゼロの社会においては精神的な要求の充足が重要になってくるでしょう。そこでは芸術や芸能の役割は大きいでありましょう。しかし芸術は、それでは食えないものと、相場が決まっています。それだけにBIは芸術や芸能に関係する人たちを支えることで、経済中心から文化中心への社会の原理の転換に貢献できるだろう。実験的な生き方を可能にするBIは、革命とか暴力なしに社会の在り方を変えていくことができる。

だから、「BIが実施されたら怠け者が増える」といった議論を、私は相手にしません。むしろ実験的な自由な生き方をしてみようと思う人が、一斉に出てくるんじゃないでしょうか。

BIの未解決問題 ―― 3K労働

しかしながら、BIには実は未解決の大問題があると思います。3K労働をやる人がいなくなる可能性がある。BI論者の中には、3K労働をやる人には高給を出せばいいという議論がありますが、そういう発想はダメだと思います。今の若者はたとえ高給を貰えても嫌な仕事はしない。ネットカフェ難民になるくらいだったら3K労働をやろう、とは思わないようです。もっとも私は、食い詰めても自分がピンとこない仕事はしないというのは、今の若者のいいところだと思っているんですよ。彼らは、自分がピンとくる仕事なら、無給のボランティアでもせっせと働きます。ともあれ、派遣切りをやられたり、ネットカフェ難民をやってる若者でも、月50万やるから漁業やらないかと言っても来ないらしい。私の地元の渥美半島でもそうですが、今の漁業は中国人労働力なしには動いていかない状態になっています。

これはしょうがないです。だからBIが実施された場合、アジや秋刀魚の味覚はあきらめる必要があるかもしれません。そこでちょっと脱線して、この問題をさらに考えてみますと、漁民の子弟は就職と思って漁師になるわけではない筈です。就職と考えたら、こんな3K労働は嫌だ、ということになるでしょう。

そうじゃなくて漁村や農村、とくに漁村の場合はどこでも近代以前からの長い歴史があり、豊かなフォークロアが語り継がれる共同体がある。そういう共同体の中で育ってその伝統を世代的に継承していく、そういう意識で漁師になるのだと思うのです、漁民の若者は。これを就職みたいにしてしまったら、農業や漁業はやる人がいなくなる。ですから農業や漁業の後継者不足は、ある意味でフォークロア的共同体をどうやって再生させるかという問題でもあると思います。これは経済政策や政府の号令で解決できる問題ではない。これもやはり様々な人が模索するしかないことなのでしょう。しかし、そういう模索をする人々には、BIはやはり一つの支えにはなるでしょう。

とにかく3K労働の問題は、BI論議において未解決の問題であると私は考えております。

今日はこれで一応話を終わりにします。どうもご静聴ありがとうございました。

古山明男さん講演録「ベーシック・インカムのある社会」第2部

古山明男 講演録

「ベーシック・インカムのある社会」

― 労働と教育の根本的転換 ―

第3回ベーシック・インカム入門の集い講演録
2009年7月12日 於:青山学院大学

講演者:古山明男

主催:ベーシックインカム・実現を探る会/フォーラム・スリー

講演者より
この講演録は、2009年7月12日に青山学院大学で行われた講演をもとにしていますが、説明がよりわかりやすいものになるよう、大幅に加筆修正してあります。 ここに記載された内容は実際の話より「こういう説明をしたかった」ものであることをご諒解ください。 なお、講演趣旨の変更にあたる場合は、附記として最後に付け加えています。

第2部「生活を保障する公共通貨」INDEX

  1. ベーシック・インカムの財源
  2. 電子マネー型公共通貨 e¥
  3. e¥の使い方
  4. 引き出し権は絶対に保護される
  5. お金が生まれる仕組み
  6. 信用創造が生産側だけでいいのか
  7. 消費者側への信用創造
  8. 普通¥(円)との交換手数料
  9. e¥は納税通貨
  10. 歴史的実例
  11. なぜ減価させるのか
  12. e¥の正体は“積立型”国債
  13. e¥では使えないもの
  14. 減価の方法
  15. e¥を受け取った企業はどうするか
  16. 運転資金
  17. 減価マネーでの貸し借り
  18. 長期資金の返済
  19. 銀行貸出しの大変化
  20. e¥管理銀行による無利子融資
  21. e¥での賃金
  22. e¥での国、自治体の税収運営
  23. 公共経済の財源
  24. おおまかなシミュレーション(1) GDP
  25. おおまかなシミュレーション(2) 公共経済構築
  26. 輸入増の問題
  27. 財政問題
  28. コントロールしやすさ
  29. 地方通貨も可能
  30. 附記1 e¥の流通残高
  31. 附記2 e¥回収額の設定について
  32. 附記3 定率法と定額法 古いお金の寄贈
  33. 附記4 “減価ストップ債”の方法
  34. 附記5 納税されたe¥も減価ストップしない
  35. 附記6 利払いの割増費用
  36. 附記7 合計5つのレバー
  37. 第1部へ戻る

ベーシック・インカムの財源

古山明男さん

話し手:古山明男さん

1949年千葉市生。 京都大学理学部卒。 出版社で雑誌編集に従事したのち、私塾、フリースクールを主宰し、さまざまな教育ニーズに応える。 教育制度、教育財政を研究。 著書に『変えよう!日本の学校システム』(平凡社)。

「ベーシックインカムのある社会」blog
economics-human.at.webry.info
古山教育研究所HP
www.asahi-net.or.jp/~ru2a-frym

ベーシック・インカムの最大の問題はですね、じゃあ実現させるお金があるのかなんです。

月8万円出すとして、子どもが半額として年115兆円ほどかかります。今の地方と国を全部合わせて予算規模が150兆円。政府予算で80兆円。いまの国の予算を軽くオーバーしちゃうんです。

ですから普通に考えたらきついでしょ。そんなことできるのか、って言うのは当たり前です。そしてそれに向かって「出来ます」と言うなら、それはやっぱり責任ある形で提示しなきゃいけないんです。

具体的な方法はいくつかあります。まともに行くんなら税でちゃんと集めて構成します。

これはね、小沢修司さんなんかが所得税45%でいちおう行けるんじゃないか、と計算しています。

もうひとつ消費税を財源とするというやり方があります。たとえばゲッツ・ウェルナーというドイツのドラッグストア・チェーン店をやっている社長さんがベーシック・インカムを主張していて、所得税なしで、消費税50%、それでベーシック・インカムの財源は出る。そういう計算をしているのがあります。

日本の今の状況でおおざっぱな計算をしてみると、税負担を考えるときの基礎にする国民所得というものがあって、それが約370兆円なんですね。

そこから、たとえば北欧諸国は所得の7割くらい税金と社会保険に使っていますので、それくらい出す気になりますとね、260兆円くらいを再配分に回せます。そうしますと110兆円のベーシック・インカムを出して、まだたっぷり残ります。だから、もし北欧諸国並みの負担率を覚悟すれば、すぐにでも実現可能です。

ベーシック・インカムはそもそも不可能ということではなくて、可能なだけの経済規模を私たちは持っているということなのです。

しかしながら、実際の増税は難しいです。やっぱり増税アレルギーっていうのはありますし、現実問題としてはなかなかまとまらない。

しかも、現実に税収の落ち込みが始まっています。この間の報道では、昨年度の税収がね、前年度に比べて13%落ちちゃった。国の税収50兆円位あったのがね、43兆か44兆です。今年もっとひどいですよ。

それから地方の税収も落ちています。

この状況だからこそ根本的な財政問題とかベーシック・インカムとかの議論に入れるんですが、入れるんだけれども、そのときには正真正銘、金がないんですよ。そういうジレンマに今あるわけですね。

80年代にもし高負担、高保障型の財政に移行する合意が出来ていたら楽に出来ていたと思う。あのころは財政力強かったです。でも、いまは財政基盤が弱くなっています。

電子マネー型公共通貨 e¥

そこで、私がこれなら実現可能性があると思う、電子マネー公共通貨案があるんです。これだと、財源はいりません。新たな経費的なものは年数兆円程度かかりますが、それで100兆円を超えるベーシック・インカム全体を運営できます。

前回関さんの講演会を聞いていらっしゃった方あると思うんですけれども、関さんは財源はいらない、公共通貨を出せばいいというお話でした。

私も、新しい公共通貨発行によってベーシック・インカムが可能だと考えています。いまの日本というこの社会の中でやれる形を考えてみました。

ウソみたいな話だと思うかもしれませんが、魔法じゃありません。片方で、生産の設備と技術は余っている。もう片方には、働いても働いても報われない人たちやお金がなくて生活に困っている人たちがいる。そういう状況なら、パイプを作るだけでうまくいくんです。

公共通貨は、いろんなものがあり得ます。これから紹介するのは、減価マネーを使って消費者側に信用創造するタイプです。これなら信用されるだろうという堅実なものにしました。

公共通貨は、誰にどのように渡すか、税とどう組み合わせるかなど、実は他にもいろいろなものがあり得ます。色々あります。みなさんも、これをもとに、シミュレーションをいろいろやってみると、おもしろいと思います。

e¥の使い方

e¥(イーエン 仮称)
  • 紙幣や硬貨は存在しない
  • ICカードで決済

これから話をする都合があるので、e¥(イーエン)ととりあえず名前をつけさせてもらいます。これね、紙幣もありません、硬貨もありません。JR東日本のSuicaとか私鉄のPASMOとかありますね。あれと同じです。カードで触ってピッ、で支払い終了。

ベーシック・インカムが生まれてくるための、すべての個人の口座がありまして、国ないし自治体が管理しています。そこに、たとえば毎月8万円、e¥を引き出す権利が発生します。

図1:すべての個人に新通貨の引き出し枠ができる。

注意:この個人枠は通常の銀行口座とは性格が違う。

それをカードにチャージすれば、どこのお店でもカードをピッと触れるだけでお買い物できます。チャージは、郵便局やコンビニでできるように機械を置きます。高額のお買い物でしたら、IDとパスワードを使って、自分のコンピュータか、お店のコンピュータから払います。

なんでいちいちチャージする方式にするかというと、カードというのはいつも盗難、紛失、偽造の怖れがあるからです。カード自体には数万円程度しか入らないようにして、お財布と同じ使い方をします。カードは何枚も持っていてかまいません。これなら、お小遣いの金額だけ入れたカードを子どもに持たせて、気楽に使わせることもできます。

でも高齢者や僻地に住む人は、カードを使うのが困難な場合もあるでしょう。そういう場合には、ベーシック・インカムを現金で受け取れるようにします。

 

それだったら、それぞれの人が指定する銀行口座に毎月振り込めばいいじゃないか、いまの給料振り込みと同じでいいじゃないかと思うでしょう。

実は、このe¥は、普通の銀行口座に振り込むわけにいかないんです。普通のお金と性質が違うので、普通のお金とまぜることができません。

e¥は、毎月1%ずつ目減りするのです。銀行がこんなお金を預かったらたいへんです。預金の利息が年に1%もつけられないのに、預かったら毎月マイナス1%、(複利で年にマイナス11.4%)なんて、それは銀行にとってあんまりです。

図2:月の1%の減価

1ヵ月以内に他人に渡せば、負担はなし。

でも、銀行で決済ができるようにしないと不便です。ですから銀行には、e¥専用の口座が作られることになるでしょう。その口座では、毎月1%の目減りは、預金者が引き受けます。その口座を電気料金や水道料金の引き落としに使います。送金に使ってもいいです。給料振り込みに使ってもいいです。銀行は、手数料をとって、管理しているだけです。

引き出し権は絶対に保護される

それだったら、とまた疑問が湧くと思います。はじめから銀行にe¥専用の口座を作って、そこにベーシック・インカムを振り込めばいいじゃないか、と考えませんか。なぜ、国か自治体に個人口座を作って、「引き出し権」にするのか。

ベーシック・インカムが生まれるとき、引き出し権として別にする理由が二つあります。

  1. 減価しないし、担保にもされない聖域を創る。
  2. 将来、個人が信用創造できる可能性を作る。

まず、聖域を作ることについて説明します。ベーシック・インカムは、なんの対価でもない、それぞれの人の生活権を保障するためにだけ生まれるものです。

この引出し権は絶対に保護されています。絶対に誰も差し押さえはできません。本人しか引き出せません。ですから、ヤミ金融に追われている人も、家庭内暴力から逃げだしたい人も、これを頼りに生き延びることができます。

そのベーシック・インカムを、毎月引き出して生活費にしてもかまいません。1~2年貯めて、車を買ってもいいです。万が一の時のために、とっておいてもいいです。たとえば、5年引き出さないでいると、500万くらい貯まります。ただし5年以上も引き出さなかったぶんの権利は消滅させたほうがいいでしょう。

引き出し権は目減りしません。まだお金ではないからです。「手続きすれば、お金になりますよ」と言われただけで、もらったわけではないのです。所得税もかかりません、資産税もかかりません。誰も奪えません、借金のカタにとることができません。

ベーシック・インカムが、最初から減価するお金で渡されると、生活に余裕のある人まで早く使おうとするので、消費が不必要に膨らみ、せわしない世の中になりそうです。

引き出し権のままプールされるようにしておけば、通貨供給を不必要に増やしません。また、好況の時にはあまり引き出されず、不況のときにたくさん引き出されるので、ちょうどダムのような働きをすることになります。

法律的には、憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」にもとづきます。

 

もう一つ、引き出し権の口座を作る理由があります。それは、個人が信用創造できるようにすることです。引き出し権のときはまだお金ではないのですが、e¥としてチャージするか銀行口座に移した瞬間に、国がお金としての価値を保障します。これは、個人がお金を創っていて、それを国がバックアップしているとも言えます。

いま、銀行がお金を創ってしまえるのですが、個人もお金を創ってしまえるようにしようということなのです。

同じ仕組みを使って、将来、出産とか、成人とか、病気や事故に遭ったとか、そういう時に、個人も新たにお金を創れるようにできます。将来、これで、セーフティ・ネットの完備した社会を作ることが出来ます。もちろん、やたらにお金を創れるということではなくて、だれもが納得できる基準に合っているときだけです。

個人がお金を創ってもいいのですか?

このことを説明するには、お金の仕組みがどうなっているかから説明しなければなりません。

お金が生まれる仕組み

お金というとふつう現金のことを思い浮かべます。でも、現在使われているお金の大部分は銀行預金なのです。

会社同士の決済は、互いの銀行口座から銀行口座へと振り込むことで行っています。普通の人の給料も、今は銀行振り込みになってますね。電気、水道、ガスも銀行引き落としです。

お金の大部分は、銀行預金のまま流通しています。いちいち現金にしないのです。

そのほんの一部分が、給料や買い物のために、紙幣の形になっているだけです。量で示すと、次の図のようになっています。これは、お金の量を表すのによく使われる、M2と呼ばれる預金と現金の合計です。

図3:お金の量(M2)

2009年6月現在(日本銀行調査統計局)

その銀行預金が、銀行でどんどん生まれるのです。銀行がお金を創っています。そんなバカな、銀行だってだれかが預けなければ預金は増えないだろう、と思うでしょう。ところが、おもしろいメカニズムがあるのです。

銀行預金は、銀行が「わかりました、ご融資いたしましょう」と言った瞬間に生まれています。

どういうことなのか、図を使って説明しましょう。

図4:信用創造の仕組み(1)

いま銀行が、A社という企業に100万円貸出をしたとします。そうしますと、銀行はA社の預金口座に100万円を書き加えます。そして、「ご融資いたしましたことをご確認ください」と言います。貸したという書類も作ります。

このとき100万円は、銀行の預かり金から移転させたのではありません。お金を貸した相手にすぐに預金させたのです。すると、結果として、集めた預金を貸したのと同じになっています。しかし、100万円の銀行預金はまったく新たにできました。つまり、ここで新しいお金が生まれています。

この新しい100万円はもう生まれていて、流通します。この100万円をA社がP社への支払いに使ったとしても、やはりどこかの銀行預金になっています。

図5:信用創造の仕組み(2)

さらにP社がこのお金を現金にして給料として払っても、同じ額がどこかに存在しています。お金はもう生まれてしまい、流通しているのです。

さらに、このやり方で、雪だるま式に預金が増えます。次の図です。

図6:信用創造の仕組み(3)

銀行はA企業へ貸出をしたので自分のところの預金が100万円増えました。預金が増えたのですから、その100万円をまた貸出に使えます。

そのままの額を貸出すことはできず、ある率は準備にとっておきますが、たとえば9割の90万を貸すとします。その90万は、また新たな銀行預金として生まれます。そしてまたその9割の81万円を貸します。こうやっていくと、どんどん増えますね。高校で教える無限等比級数を使って計算すると、合計で1,000万円のお金が生まれます。

これが、いまのお金のしくみです。お金は、銀行が貸出をしたときに銀行預金として生まれます。そして銀行預金のまま、あちらの口座からこちらの口座へと動いています。そして給料として払われて生活費になったり、税に払われて政府の予算になったりします。でも、元の生まれたところはと言えば、ほとんどは銀行の貸出だったのです。

預金の一部が、給料支払いの時などに、日本銀行券の姿になります。それをわれわれが、買い物に使っています。

信用創造が生産側だけでいいのか

こういうふうにお金を創ってしまうことを、信用創造と言っています。いろんな信用創造があるのですが、銀行の信用創造で生まれるお金を銀行貸出マネーと呼ぶことにしましょう。

銀行貸出マネーは、企業が「これから生産活動を行いたい」という時に、新しくお金を創れるシステムなのです。好況でお金が必要なときは、どんどんお金が生み出されますし、不況でお金の必要が少ないときは、返済されるお金のほうが多くなります。たいへん柔軟であるという長所があります。

なかなかよくできていて、高度成長する経済を支えることができました。

しかし、大きな問題もいくつかあります。

銀行貸出はすべて利息を伴っていますから、貸出の総量より返済の総量が必ず多くなります。経済成長を続けていないと、全部は返せなくなるのです。

また、銀行貸し出しマネーは、生産活動だけではなく、株や不動産を買うためにも生まれています。株や不動産は、投資と投機の区別が難しいです。買うから値上がりし、値上がりするから買う、で実体以上の値段がついては、暴落して大量の不良資産を生み出します。それがバブルです。

世界各国でバブルは起こっています。バブルはネズミ講のようなものでして、かならずいつかははじけます。その影響があまりに大きいので、各国の政府と中央銀行は次のバブルが起こるように誘導して、その場をしのいでいます。でもこれは、問題を先送りしただけです。次にもっとひどい症状が待ちかまえています。

そして根本的な問題は、この銀行貸出マネーは、生産の側には必要に応じて供給されますが、消費の側には供給されないことです。消費者の側は、賃金からしかお金を得られません。

図7:消費の側には信用創造が適用されない

もちろん消費者ローンはあります。でも、消費者はお金を貸してもらっても、お金を返すときは、消費を切り詰めて返すしかありません。

そのため、消費者が使うお金が増えないので、生産側も収入がのびません。企業が銀行に貸出を受ければ店の設備を作ることはできます。しかし、肝心な売上げは、消費者が買ってくれないと伸びません。

銀行貸し出しマネーだけでは、人々の所得を増やせないことを、よく現したグラフがあります。日本の通貨の量とGDPを表したものです。

図8:通貨量とGDP (日本銀行「時系列統計データ」より作成)

GDPというのは、企業利益と個人所得の合計です。日本のGDPは、90年代以降ほぼ横ばいです。ところがその間にお金の量(代表的な指標であるM2をとりました)は、どんどん増えています。

このようにお金はじゃぶじゃぶとあります。でも、人々の収入は増えていないのです。

消費者側への信用創造

そこで、消費者側に信用創造することが考えられます。ベーシック・インカムとしてお金を生まれさせるのです。

生産と消費は一体のものです。それに必要なお金を、生産側から入れても、消費側から入れても、同じことです。いったん入れれば、あとは循環するだけです。

消費側に信用創造してしまってもいいではありませんか。これで、生産と消費のバランスがとれるようになります。

図9:消費者側への信用創造

とはいえ、ここで大きな問題があります。

消費者への信用創造は、貸し付けても返済される見通しがありません。消費者は、お金を使えばそれっきりなのです。それが消費というものです。ですから貸すのではなく、あげるしかありません。しかし、そうすると出回っているお金がどんどん増えていきます。ベーシック・インカムは毎年100兆円もの額になります。流通して、結局はお金持ちのところに集まり、バブルになりそうです。今の世の中では、お金があまった人たちは、モノを買うより株や不動産に向かいますから、インフレよりバブルのほうが起こりやすいです。

でも、持続可能なサイクルを作ることはできます。普通の方法としては、消費税や所得税で回収することです。この方法も真剣に検討されてよいと思います。

しかし、コンピュータが発達した現在、電子マネーを利用すると、そのお金が人から人へと移されるたびに、たとえば1%ずつ、自動的に回収することができます。お金を使った人は、かならずそのお金の恩恵を受けているのですから、わずかな使用料を払うつもりで回収に応じてもいいではないですか。あらゆる口座移転の際に回収します。

図10:電子公共通貨 回収システム

つまり、この電子マネーによる信用創造は、個人に貸したが、返済は人から人へと回るときに、使った人みんなでする、という形になっています。みんなで担う、公共の通貨なのです。けっきょく、ベーシック・インカムを受け取った個人は返さなくてもいいのですから、もらったことになります。誰もが同額をもらっているのですから、不公平はありません。

使った時の1%回収だけでなく、この電子マネーは1ヵ月保有するごとに、その保有者から保有料として1%を回収します。この公共通貨は、みんなで使うためのお金です。誰かが資産として貯め込みにくくしてあります。ただし、1ヵ月以内に使った場合には、保有料は払わなくてかまいません。

こうしますと、この電子マネーは、絶対に毎月1%以上が回収されます。毎月1%というペースは、5年9ヵ月で半分になり、20年で1割以下になるペースです。発行されたe¥は、かならず消滅します。だから、次から次へと出すことができます。

回収された電子マネーは、また次のベーシック・インカムの資金にできます。古い電子マネーを消滅させるのにも使われます。(附記1)

こうすれば、持続可能な、消費者のための信用創造システムが作れます。しかも、返済に困る人も現れませんし、貸し倒れの心配もありません。

さらに将来は、この電子マネーシステムを使って、ベーシック・インカムだけではなく、人々の生活の必要に応じた信用創造ができます。病気や怪我をしたとき、医療費や生活費のために信用創造していいのです。あるいは、一家の稼ぎ手が急逝したとき、家族に信用創造を認めればいいです。

そうしたら、生命保険や疾病保険なしに、国や自治体の予算もなしに、生活のセーフティ・ネットを作れます。

ただし、電子マネー公共通貨による信用創造は、生活に必要なことに限定することが大事です。それが、インフレやバブルを防ぐことになります。

普通¥(円)との交換手数料

e¥は普通のお金と交換できることが保障されていないと不便です。普通の円と交換が保障されていないと、「e¥では受け取れません」という人やお店も出てくるでしょう。

でも、もしe¥と普通のお金を自由に交換できたらどうなるでしょう。誰でも、e¥をもらうと同時に、普通のお金に換えてしまうに決まっています。目減りするお金より、目減りしないお金のほうがいいですから。そうしたら、e¥は流通しなくなります。

そこで、e¥から普通のお金に換えるときは、手数料を取るようにします。たとえば、1年分の減価にあたる11.4%を払ってもらいます。

こうしますと、手数料を払って紙幣に換えることが保障されます。でも、安い手数料でもないので、e¥のまま使ったほうが得になります。買い物にはほとんどe¥がそのまま使われるでしょう。

でも、結婚式のご祝儀はやはり紙幣でないと熨斗袋に入れられませんね。それは、銀行に行って11.4%の手数料を払って1万円札に交換してもらいます。

e¥は納税通貨

新しいお金を作ろうとするとき、それを受け取った人の立場を考えなければなりません。

そのお金を受け取ったお店にとって、使い道があるかどうかなんです。もし使い道がないならば、お客がe¥で払おうとしても、お店としては「普通のお金で払ってください」と言います。そうなったら、もうe¥は流通しないお金になってしまいます。

どうすれば、e¥を受け取った側が、そのお金をもらっても不自由しないでしょうか。

必要なことは、e¥をそのまま納税に使える通貨として認めることです。e¥は国が作る公共通貨です。その通貨を国が税金として受け取らなくて、「税金は日銀券で払ってくださいね」などと言ったら、どうなるでしょうか。そんな通貨は誰も信用しなくなってしまいます。だから国は、ふつうの¥とこのe¥をわけへだてなく税金として受け取ります。地方税にも使えます。

そうすれば、どこのお店も会社も、e¥を受け取ります。税金に払えるなら、誰でも必ず使い道があるからです。自分が多すぎれば、納税の多い人と交換すればいい。

そうするとおもしろいことが起こります。e¥は月に1%ずつ目減りするお金です。商売をしている人たちにとって、月に1%は死活問題です。e¥を受け取ったら、さっさと手放してしまおうとします。税金の支払いに使えるなら、e¥をつまみ出して、払ってしまいます。それでもまだe¥があるなら、先の税金まで払おうとします。持っているよりはましです。

つまり、税金の先払いが流行るようになります。納税者が「来年のぶんまで払わせろ」と言うと、税務署が「ダメです、今年のぶんしか受け取れません」と押し問答するようになるかもしれません。

歴史的実例

このような減価するお金、しかも納税に使えるお金は、実例があります。

1932年にオーストリアのヴェルグルと言う町で地域通貨を出しました。大恐慌の時代なのですが、この地域通貨のおかげでこの町だけものすごく経済効果が上がって生き延びました。これは町でもって労働証明書という名前で紙幣を出しちゃいまして、公共事業をやったときの賃金として払いました。その紙幣は毎月額面の1%のスタンプを買って貼らないと通用しないという仕組み作りました。これがその紙幣の写真です。

図11:ヴェルグルのスタンプ通貨

この証書の右上に空欄がありますけれども、所有者はここに毎月一枚づつスタンプを買って張るんですね。それは1%ずつ毎月価値が減っているようなものなんですよ。

このお金は持っていると余分なスタンプ代を払わなければならないので、どんどん使われます。お金の形で貯め込もうとしないで、早く使おうとするのです。そのため、ものすごく経済が活性化しました。失業者が減り、生産が増えました。税金を前払いする人たちも現れました。

すごくうまくいったんです。でも、真似しようとするところがたくさん現れたもので、通貨制度が混乱することを心配した国に禁止されてしまいました。これやると税金が地方には入るけれど、国の方に入らなくなっちゃいます。

e¥は、このヴェルグルの労働証明書みたいなものと考えればいいです。スタンプ貼る代わりに、手持ちのe¥の一部を自動的に回収していきます。そのため、手持ちのe¥が減るのです。

なぜ減価させるのか

我々はお金を貯めたがります。すべてのモノは、腐ったり、すり減ったり、壊れたりしますが、お金にしておけばいつでも欲しいモノと交換できるからです。お金が貯まっていると、とても安心できますね。

すると、どうしても貯めるのが上手な人と下手な人がいます。上手な人はたくさんお金を集めて、使わずに貯め込みます。そうすると、お金が循環しなくなります。トランプでチップをぜんぶ集めてしまう人ができると、ゲームが続行不能になるようなものです。生活に苦しむ人ができるし、経済活動が滞ります。

そこで、貯まったお金が活用されるように、利子という制度を作って、お金持ちがお金を貸すようにし向けます。銀行がその仲立ちをします。これで、お金が死蔵されることはなくなります。でもそうすると、お金を持っている人は何もしなくてももっとお金を殖やすことができますし、お金のない人はけっきょく利子のぶんをたくさん払わなければなりません。貧富の差がどんどん大きくなります。やがて、ドカーンとすべてをご破算にしてしまうような事態が起こります。

ゲゼルという経済学者は、減価するお金を考え出しました。われわれの生活に必要なさまざまな物資よりもお金の価値が少し低くなるようにするのです。そうすると、お金は貯め込まれなくて、よく流れるようになります。ヴェルグルの町長さんは、ゲゼルの理論を実行したのでした。

減価するお金は、お金を貯め込む人たちからお金を徴収するのと同じ働きがあります。人々はお金を貯めるより、お金を使おうとします。お金は滞らずに循環するようになります。

しかし、お金が目減りするだけだったら、みんなが貧乏になります。お金が湧き出しているところが必要です。

すべての個人ごとに必要な生活費としてお金を湧き出させるのが、お金のもっともよい湧き出しどころだと思います。どんな文明であろうが、人々の生活維持が経済活動の根幹なのです。生活費は、労働と生産を生み出すために使われ、次の人へと渡されていきます。ベーシック・インカムと目減りするお金の組み合わせは、いつも流れている川を作り、そこから誰でも水をくめるようにするようなものです。誰でもが安心できる社会を作れます。

しかし、目減りしないお金も存在していないと、いまの経済はうまくいきません。普通のマネーとe¥が共存していくのがいいと思います。

e¥の正体は“積立型”国債

では、このe¥という電子マネーは誰が発行した、どういうお金でしょうか。

おもしろいことに、いろいろに作れるのです。政府が発行した通貨としてもかまいません。別な日銀券としてもかまいません。あるいは、政府が保障する新たな種類の消費者クレジットとすることもできます。

いろいろあり得るのですが、「信用される通貨を作る」ことが大事です。それには、e¥は国債である、とするのがいちばんいいと思います。

国債というのは、国が発行した債券で10年後とかの期日に額面の金額を払い戻します、という約束なのです。国債は、あらゆる債券のうちでもっとも信用があります。もしそのまま人に渡せば、お金を渡したのと同じことになります。しようと思えば、国債をそのまま通貨にすることだって、可能なのです。

e¥は、額面100円の小額国債が集まっているものだとします。e¥の一枚一枚は、「満期になれば、絶対に100円玉一個と交換します」と国が約束してあります。そうして、最初から100円のお金として通用させるのです。

しかし、普通の国債とは、たいへん違ったところがあります。

普通の国債ですと、発行したときに購入者がお金を払い込み、期日になったら国が払い戻し(償還)します。利子も払います。次の図です。

図12:通常の国債

e¥ですと、次の図です。払い込みなしに発行してしまい、それが流通する間に少しずつお金を集めて、満額になったら払い戻します。“不特定多数者による積立型国債”とでも言ったらいいと思います。利子は払いません。

図13:“積立型”国債

国債と通貨との関係ですが、日銀券の場合ですと、日本銀行は66兆円の国債を保有し、76兆円の日銀券を発行しています(09年7月)。各国の中央銀行も、これと同じような構造になっています。

日本銀行は、国債という信頼できる資産を持っていることで、日銀券の信用を得ているのです。でしたら、国債そのものを直接にお金として通用させたほうが、もっと確実ではないでしょうか。e¥は国債そのものです。

 

"不特定多数者による積立型国債"であるe\は、使用1回1%と保有一ヵ月1%で払い込んでもらいます。この払い込みのために減価するのです。113円になったところで満額となります。そのとき113円のe¥または100円の現金で払い戻しして、消滅します。(附記2)

e¥運営には、かなり大がかりな全国電子システムと、たくさんの窓口を必要とします。e¥をまとめて管理するところが必要です。国と自治体による直営システムを新たに作っても、日銀がやってもいいのですが、似たようなシステムをすでに持っている「ゆうちょ」あたりが管理するのもいいんじゃないでしょうか。

e¥では使えないもの

ところが、目減りするお金では、どうしても受け取るわけにいかないという業種があります。たとえば、銀行にe¥を持っていって「定期預金にしてください」と言っても、銀行は、目減りするお金を殖やして利息を付けることは不可能です。「普通のお金に換えてからいらっしゃってください」と言うしかありません。

他にも、お金を長期に渡って運用する場合には、e¥では運用不可能だから受け取れなくて当然なのです。銀行預金をはじめ、株式、国債、社債、保険、年金積み立てなどがそうです。

また、外国通貨との交換も無理です。目減りする通貨を外国が受け取ってくれるはずがありません。

土地を売る人も、e¥では受け取れないことが多いでしょう。

貯蓄、外国通貨購入、土地売買などは、みんな消費税がかからない取引です。これらは生産・消費活動ではないのです。これらの場合には、e¥での受け取りを断れるように決めておいてよいでしょう。普通の円に交換してから使います。

こうすると、たまったe¥を不動産や株や通貨の投機に使おうとしても、交換手数料があるために儲けるのは非常に難しくなります。これによって、e¥のバブルマネー化が防げます。

減価の方法

図14:1枚1枚の100円国債は額面を保つ

減価の実際ですが、e¥管理銀行が1%の自動徴収(国債払い込み)をすることで、目減りします。1万円のe¥があったらそこから100円を一枚抜き取る方式です。これだと、全体は1%減りますが、一枚一枚は100円の価値を保ちます。(附記3)

1%ずつ払い込まれたe¥は管理銀行に保管されて、満額になったe¥国債を償還させるための準備金になります。保管されたe¥は貸出にも使われます。

もし何もしないで10万円のe¥をじっと持っていると、次のグラフのような減り方になります。1年で8万8,638円になります。5年9ヵ月で半分の5万円になります。

図15:e¥の減価プロセス (月1%減価 15年間)

単位:縦軸=万円/横軸=月

113ヵ月のところで、ちょっと増えています。これは、償還期日です。一枚あたりe¥113を払い戻しされました。e¥113という額は、普通円の100円と交換できる額です。

ただし、回収は古い電子マネーから行いますので、古い電子マネーはたいてい管理銀行にあります。償還は管理銀行の中で行われ、自分で自分に払うことで古い電子マネーを消滅させます。

e¥を受け取った企業はどうするか

企業の立場を考えてみましょう。企業は、いつも借入金を返済し、手形を落とさなければなりません。売上げの多くがe¥になった企業はどうしたらいいでしょうか。

e¥でのベーシック・インカムが実現したとすると、貧乏人でもお金持ちでも、ふだんのお買い物でe¥から使ってしまおうとします。

そうしますと、スーパーとかコンビニとか消費者相手の商売は、e¥ばっかりたまっちゃいます。

そのままでは、商売する人にとって困ったことになります。企業は、仕入れには手形を使い、手形の期日までに銀行の当座預金に振り込みます。また、運転資金を銀行から借りては返済しています。ところがe¥では、銀行口座に振り込めません。普通のお金に換えるには、11.4%も手数料がかかってしまいます。11.4%では、商売が成り立たないでしょう。

運転資金

  • e¥での約束手形を発生させる。
  • e¥での運転資金借り入れを発生させる。
  • 過渡期には、11.4%の手数料を国が補助して、返済を援助するなども可。

そこで従来の手形とは別に、電子マネー版の手形を発行できるようにします。いついつに、いくらを電子マネーで払いますという約束手形です。約束は約束であって減価することはありませんので、信用ある企業のe¥約束手形は価値あるものになります。手形割引も可能です。

いったん移行してしまえば、問題なく回転するでしょうが、移行するときはかなりの配慮が必要になると思います。手形を落とせないことは倒産を意味します。

企業がe¥しか持っていないので手形を落とせないという事態を防ぐために、過渡期には、国が普通¥との交換手数料を補助する。あるいは、手数料部分の繰り延べ返済を認めていいでしょう。また、銀行から企業へe¥融資が必要になりますが、その資金としてe¥管理銀行が一般銀行にe¥無利子貸出をします。

減価マネーでの貸し借り

e¥のように減価するお金では、お金の貸し借りが難しくなるのではないかと想像されると思いますが、そうではなく、たいへん面白いことがおこります。

生産活動を活発に行っている企業ならば、e¥で借りるメリットがあります。借りたら、すぐに仕入れや賃金の支払いに使ってしまうのです。そして売上げから、返済の期日に同額を返済します。そうすれば、減価を引き受けないで済みます。けっきょくこれは、無利子融資を受けて運転資金に使ったのと同じです。たいへん得になります。

いっぽう、e¥を持ったまま、使い道がなくて目減りの危険にさらされている企業や銀行もあります。そういうところは、6ヵ月後とか1年後に同額を返してもらう約束をして、生産活動をしているところに渡します。そうしますと、自分は減価を引き受けないですみ、同額が期日に返ってきます。この方式なら、貸すメリットがあります。多少のマイナス金利であったとしても、持っているよりましです。

つまりe¥は、そのまま持っていると価値が減るのですが、生産活動が活発なところに貸せば、価値が減らないのです。e¥は、生産活動が活発なところに集まってきます。

長期資金の返済

手形や運転資金は、e¥建てのものを発生させて、誰にも損のないようにできます。しかし長期資金への対応は簡単ではありません。長期の銀行借入金、社債、株式などです。

長期借り入れを普通円でしたのに、売上げがe¥ばかりという企業はどうしたらいいでしょうか。

これには、返済期日に同額のe¥で支払うことを認め、ただし、本来払うはずだった普通円と交換するための手数料は、繰り延べ払いにすることを認めることで解決できます。貸した側は、返済されたe¥の総計を普通円に交換すれば損がありません。e¥のまま使ってもいいです。返済した企業側は、結局手数料ぶんだけ余計に払わなければならなくなりますが、e¥発行による経済活性化のメリットを十分に受けています。繰り延べ払いにすることで、急なショックはありません。また、e¥売上げに対する法人税の減免で、企業の損を軽くするという手段もあります。

e¥の流通が盛んになったとすると、企業が資金を調達するやり方に変化が起こります。普通円で長期の借り入れをしたのに売上げがe¥ばかりという企業は、いったん普通円に交換してから返済しなければなりませんので、結局、高い利率の借り入れをしたのと同じことになります。それでは引き合わないのでe¥での借り入れが多くなります。その場合、借り入れてそのままお金で持っていると損するので、必要なときに必要なだけ借り入れてすかさず使ってしまうやり方が主流になってくると思われます。

自動車のトヨタが、「カンバン方式」というのをやって、材料や部品の不必要な在庫は持たない、必要なタイミングに必要なだけ納入されるシステムを作りました。それと同じように、不必要なお金は持たない、必要なタイミングに必要なだけ借りる、という方式が資本調達でも行われるようになると思います。返済は、将来の時点での売上げから行います。

投資が必要なときに必要なだけe¥で社債を発行し、予想収入に合わせて少しずつの返済を約束するタイプが増えると思います。

株式発行ですが、株式は返済の心配をしなくていいので、普通の円で発行すればいいでしょう。配当はe¥で払うようなタイプが増えそうです。

銀行貸出しの大変化

e¥の流通量が増えてきますと、銀行の仕事が変化します。銀行は、普通のお金と同じにe¥を預金として受け取ることが危なくてできません。自分で持っちゃったら大変、毎月1%減っていくのを引き受けなくてはなりません。そこで、決済や引き落としのためには、目減りの責任はお客さまご自身で、という新しい当座預金を作ることになるでしょう。銀行は、場所を貸しているだけです。管理手数料を取るのは正当なことでしょう。

減価マネーでは、銀行がみなさんから大量の預金を集めてそれを貸し出す業務は、困難になります。銀行が預金を集めても、タイミングよく借り手がいればいいのですが、そうとも限りません。借り手を見つけられなくて自分で持っていると、たちまち減価のリスクにさらされます。

そこで、銀行はいったん自分のところの預金として受け入れることはしないで、貸し手と借り手を仲介して手数料を取る仕事をするようになります。

いっぽうで、e¥での資金需要はけっこうあります。企業は運転資金としてe¥の借り入れを必要とします。銀行は、e¥を持っていて使い道がなくて困っている企業と、e¥借り入れをしたい企業を仲介します。

銀行がe¥を貸す場合でも、自分のところの預金量をそのままにして貸すのではなく、いったん渡してしまいます。そして、返してもらう約束をします。

けっきょく、e¥の場合には、銀行貸出による信用創造が起こらなくなるということなのです。図にしてあります。

図16:銀行貸し出しの大変化

実は銀行の信用創造が、こんなに資本主義が脆弱である大きな原因なんです。銀行が、利子でもうけようとして、貸出しをしすぎるんです。そのため貸出の1割も不良債権が発生すると、倒産してしまいます。5%でも危ないでしょう。銀行が倒産すると、企業も他の銀行もバタバタと連鎖反応で倒れます。

減価マネーですと、銀行は貸出で儲けにくくなり、生産者と資金の仲介者という本来の役割を果たすようになります。e¥が多くなると、価値が保存される日銀マネーも大事になってきますので、銀行の新しい仕事もたくさん生まれると思います。

e¥管理銀行による無利子融資

  • e¥管理銀行は、一般銀行に対して、e¥を無利子融資する。
  • 回収された古いe¥を、融資に使う。融資に新規発行はしない。

企業から、運転資金としてe¥の需要はかなりあるでしょう。それに対して、銀行の手持ちe¥や、斡旋できるe¥が不足することはあります。そのときは、e¥管理銀行から一般銀行にe¥の無利子融資を行います。あるいは、銀行が、e¥管理銀行から企業に貸すことの仲介をします。

一般銀行のe¥貸出金利は、市場に任せればいいと思います。e¥管理銀行からの無利子融資が控えていますので、高い金利になることはあり得ません。e¥を貸したい人が多い場合には、マイナスの金利が生じることもあり得ます。

e¥の貸出にあたって、原則としてe¥管理銀行が新たにe¥を作り出すことはしません。e¥管理銀行には、回収したe¥がありますから、それを一般銀行を通じて貸出に使います。

e¥といういくらでも作れるお金を、国が新たに無利子融資に使うと、あぶないと思います。もういくらでも融資出来ちゃうんですよ。経営危機の大企業があると、結局は民主主義国家いろんな圧力があるわけで、助けてくれーっていうのは、労働者も経営者も思いますよ。そういうところにぼんぼんお金を貸して、潰れそうな会社をみんな助けちゃうんです。そうすると日本が社会主義国と同じになってしまいます。ゾンビ企業ばっかりになっちゃう。やはり経営責任は経営責任です。そしてベーシック・インカムで、人を助けています。失業しても人が生き延びられる仕組みを作っています。で、そのぶん企業は、経営責任を取ったほうがいいです。

無利子融資といっても、e¥ではあらゆる口座移転に際して1%の手数料がかかります。往復だと2%かかりますので、これが実質的な金利になります。この口座移転手数料の率を調節すると、短期金利の調節と同じ意味を持ちます。

e¥での賃金

e¥で賃金をもらう人の立場はどうでしょうか。はじめのうち、e¥での給料支払いは給料の一部でしょうが、売上げがe¥ばかりの企業は、賃金もe¥で払わせてくれと言います。そこで働く人がe¥ばっかりで賃金をもらっちゃったらどうしましょう。ちょっと困っちゃうでしょ。生活費として使うのなら問題ないのですが、一番困るのは住宅ローンを抱えている人たち。だってe¥はそのままローン返済には使えないことになっています。あるいは、家を建てるために貯蓄をしたい人たちもいます。

その解決策に、絶対というものはないので、いくつか案を作りました。

A案
給料全額e¥払いを認める。ローン返済、預金などには、個人が手数料を払って¥に交換。かわりにe¥所得税低率。
B案
給料全額e¥払いを認める。ある割合の¥との交換を国が手数料補助。
C案
給料のある割合は、普通¥で払うことを企業に義務づける。

A案は企業が全部e¥で払っても構わない。その代りにe¥での収入に対する所得税は0%か、非常に低くする。

B案も、給料を全部e¥で払っても構わない。けれども、ある割合を普通¥と交換するのは国が手数料を援助してくれる。

C案。一定割合は普通の円で支払うことを企業に義務付ける。普通の円との交換は企業が責任を負う。

いろいろな方法があるんです。(附記4:“減価ストップ債”の方法もある)

e¥での国、自治体の税収運営

ベーシック・インカムにe¥が使われるようになりますと、e¥が集まってしょうがないところができます。国と地方自治体の税収です。個人でも企業でも、e¥は真っ先に税金の支払いに使われるに決まっています。

税金の前払いが流行るようになりますね。

普通の円を持っている人も、そのまま納税に使わないで、e¥を持てあましている人とちょっといい率で交換してからe¥で納め、差額のぶんを得しようとするかもしれません。

そこで国があわてて、e¥での納税を制限したりしたら、e¥は信用を失ってしまいます。ここは、e¥で税金を受け取ります。

国の工夫は、いかにe¥をe¥のまま通用させるかにかかってきます。国や自治体はその年の収入でその年の支出をまかなう方式で、蓄えを作るタイプではありませんので、基本的にはe¥でやれるはずです。

予算のうちもっとも大きな部分は、公務員給与をはじめとした人件費です。e¥が定着してなんでも買い物ができるようになったら、人件費は基本的にe¥にしていいでしょう。しかしそれでは住宅ローンなどで普通円に交換しなければならない人たちが手数料で損しますので、e¥でもらう給与に関しては所得税フリーにしたらどうでしょうか。

政府がe¥で払うのでは問題になりそうな費目もあります。最大のものが、これまでに発行した国債や地方債の利払いや償還です。普通の円で払う約束をしてあるのに、税収はe¥ばかりなのです。この問題に対しては、普通円への変換手数料分を割増してe¥で払うことを認めたらどうでしょうか。受け取った人は、すぐに普通円に換えれば損はまったくありません。しかし、変換するとは限らなくて、e¥のまま使うかもしれません。

現実には、公債の借り換え(普通円のまま継続)に応じる人が多くなって、実質的には国債や地方債の償還をしなくてすむ割合が大きくなると思います。e¥が行き渡ってきたときには、減価しないし利子も付くという債券は、新規発行が少なくなり、貴重なものになってくるからです。

国や自治体に納税されたe¥は、減価がストップするようにします。(附記5)

いっぽう、積み立てて運用するタイプの政府管掌事業(基礎年金等)は、だんだん運用が困難になります。長期的には徴収タイプに移行することになるでしょう。そのほうがいいんじゃないでしょうか、積み立て運用型の政府事業が、年金やかんぽ事業などの問題を起こしてきたんです。

公共経済の財源

ベーシック・インカム実現後も、公共経済、つまり福祉・教育・医療・環境、そういうところにお金が回っていかないと本当の意味で生活が充実してきません。そういう公共経済は、もうかるもうからないではなく、必要だから作るものです。みんなで出し合うお金、つまり税金をもとに運営しなければなりません。そのための税収が必要になります。

図17:ベーシック・インカムによる公共経済拡大

e¥でベーシック・インカムを出し、消費税と組み合わせる方式で行きますと、この財源が作りやすいんですね。消費は必ず増えます。その増えた分から払う税ですので、無理がありません。また、電子マネーであることを利用して、支出したときに消費税を源泉徴収することもたぶん可能です。

行政サービス、教育、福祉などの費用を、商品の原価の一部と考え、買い物をするときに払ってもらうことは、合理的だと思います。どんなモノやサービスも、道路や港があり、制度が整い、教育程度の高い人々がいるから、生産できているのです。

しかし、消費税には問題もあります。消費税は収入の少ない人も同じ率で払わなければならないので、貧富の差が大きくなることです。ですから、消費税は、ベーシック・インカムと組み合わせなければいけません。そうすれば、低収入層にとってはけっきょく収入増になります。さらに、減価マネーの場合は、実質的に資産税を課しているのと同じですから、お金を貯め込む人たちへの対応がすでにできています。この資産税の脱税は不可能です。

税っていうのは、みんなでお金を出し合って維持しているサービスのためにあります。

ですから、税収を増やすなら、住民自治が絶対に必要です。自分たちで決めたことだから、払う気になるんですね。それに、実際に住んで暮らしている人たちで決めないと、ほんとうの必要度がわからないです。

今とにかく地方にもっとお金が行かないとだめです。職がないから人々も都会でばっかり暮らしちゃう。今消費税5%取られているでしょう。そのうち、地方に行くのは1%なんです。4%は国に行っています。地方の方にもっといっぱい渡して自分たちで何が必要か判断して、責任を持って使うようにしなくちゃいけない。

この地方と国の分配率を7:3とか6:4で地方に多くしていくべきです。それにともなって、地方に権限を移譲して、自治を拡大します。

おおまかなシミュレーション(1) GDP

大まかなシミュレーションをちょっとやってみました。これ絶対っていうことはないんだけれども、ちょっと目安にはなるかと思います。

ベーシック・インカム毎月8万円で15歳以下を半額としまして年間116兆円かかります。これをe¥を新規発行して出します。

収入がこのくらい増えたら消費がこのくらい増えるというのは経験的に知られてるんですよ。日本の場合0.6~0.7くらいだとされてます。

アメリカだとすごくて、0.9以上を消費に回しちゃう。アメリカはほぼ使っちゃう。日本の場合は、もっと使い方が控え目なんですけれども、このe¥でのベーシック・インカムの場合には、超貧乏ですぐ使ってしまう人たちみんなにも渡るでしょう。給与の一部もe¥というどんどん使わないとやばいお金になる。なおかつ将来のために貯めなくてもいいという条件が付いている。

だもんで、消費に回るお金の率は、相当多いと思います。控え目に見て0.8としました。そうしますと93兆円、四捨五入して90兆円の消費増が期待できます。

そうしますと民間の最終消費支出、とにかく投資じゃなくて現実に金を使っているのが、現在240兆円のが、330兆円くらいになる計算になります。一方でね、消費が盛んになるとそれだけ国内で生産が起こる部分もあるんだけれど、中国から買っちゃえ、というようなのが相当あるんですね。おそらく30兆円程度が輸入になります。そうしますと差し引き60兆円くらい国内生産が増えるという計算です。

今年のGDPを480兆円として、GDPがおそらく540兆円くらいになります。この毎月8万円のベーシック・インカム出しましてGDPが11%ぐらい伸びちゃうという計算なんですよ。これはかなり控えめな計算をしているとは思うんだけれども、信じられないようなすごい数字なんです。ちょっと経済に明るい人だったらウソじゃないかって言うような数字になるんですよ。

これが、予算を使わずにe¥でベーシック・インカムを出すことで起こります。

ただしe¥の一部は、普通の円に転換されて貯蓄に向かったり輸入に向かいます。おおざっぱですが30兆円くらいとみています。それがe¥と交換されるのに応じるために普通の円も用意しなければなりません。それは普通円の国債を発行してまかないます。ほんとうに政府の出費になるのは、交換される普通円とe¥との差額の部分、つまり11.4%の部分です。そうしますとこの新しい公共通貨運営にかかる費用は、この差額部分、とりあえずの計算では3.4兆円ということになります。あと、システムを作るための初期費用はどうしてもかかります。1~2兆円でしょうか、そのくらいだと思います。

けっきょく年間4兆円程度の出費を覚悟して、それで11%のGDP増加です。しかも、一回かぎりではなくて、持続可能です。(附記6)

いま、国内の生産力に余力はありますし、安い輸入品もある時代ですので、かんたんにインフレにはなりません。

おおまかなシミュレーション(2) 公共経済構築

単純にGDPが増えてもほんとうには豊かになれなくて、さきほど話しましたように、公共経済を構築する必要があります。それには税収がどうなるかです。

これから挙げるのは極端な一例ですが、参考にはなると思います。

個人の所得税はなし、消費税25%とします。

そうしますと、民間最終消費330兆円の25%で、消費税収が約83兆円になります。現在の個人からの税は、所得税が国と地方の合計で約28兆円、消費税が約13兆円、計41兆円です。したがって、42兆円の税収増。ただしe¥と普通円との交換手数料約4兆円と公債費のe¥割増3兆円が新たな費用ですのでそれを引くと、35兆円税収が多くなることになります。(附記:講演では公債費割増を含めなかったので38兆円としました)

この35兆円の増収は、無理な増税じゃないんです。個人の収入は増えています。経済活動も盛んになってGDP増えています。それでもって増えた税収なんですよ。

35兆円あると、いろんなことできますね。

例えば教育費です。教育費の研究をしていまして、幼稚園から大学まで公立も私立も全部タダにするのに6兆円で足りちゃうんですよ。たった6兆円。さらに、一人一人に応じた教育を発生させるための費用をつけてやってとりあえず8兆円も出れば、かなり充実します。

それと今一番財政の問題で困っているのは年金です。パンクしかけちゃっている。これちょっと根本的な設計変更しなきゃならないと思われるんですけれども、基礎部分はベーシック・インカムで置き換えがききます。さらに10兆円もあったら、十分な給付ができそうです。

あとですね、今福祉関係で、たとえば介護のヘルパーさんなんて給料安いですね。ああいう人たちにいっぱい払ってあげるといいです。ヘルパーさんたちは裕福でない人たちが多いから、あの人たちが普通の生活をして普通にお金を使うようになると、それで経済がよくなります。

生活そのものが充実することでお金の循環がよくなっていくと、本当の経済発展であり、本当のGDP成長なんですね。そういう生活の充実に、たとえば福祉で5兆円増やせる。医療費で5兆円増やせる。これでも合計まだ28兆円なんです。とにかく、人々がほんとうに必要としているものに使うことです。そうするとお金が生きます。

こういうようなお金を公共経済の方に使っていって、それこそ本当に豊かな社会が出来るんですね。

輸入増の問題

問題は輸入増なんですよ。ベーシック・インカムを新たな通貨で出すとインフレが起こるんじゃないかって考えると思うんですけど、今の我々に買いたいものが増えたら外国から輸入するものが多いです。中国あたりで安いものをぼんぼん作っていますからね。現に今輸入は増え続けていまして、2005年に68兆円だった輸入が、2008年に、わずか3年で88兆円になっているんです。消費に対する比率でそのまま計算しますとベーシック・インカムによる消費増で、もう30兆円くらい輸入が増えると思われます。

ある程度は輸入超過でいいんですよ。外貨が余ってるっていうのはバカらしいですよ。今までドルをしこたま貯め込んだ。結局ね、商品券もらって喜んでいるだけなんですよ。結局最初360円の価値あったのが、今1ドル100円を切っています。その商品券の価値がどんどん失われました。買い物しないまま商品券のまま貯めてどんどん減っちゃったっていうものなんですね。

輸入の場合は通貨の問題があります。最初のうちは、外国への支払いは今まである普通の円でドルやユーロと交換して払えばいいんですけどもね、だんだんe¥が多くなった場合、e¥でもって輸入しようとすると、そんなお金を外国は受け取ってくれないですから一旦普通マネーに変換しなくちゃならないんですね。そしてこのe¥から円に変換するのに手数料が11%必要ですけれども、そのためにe¥を持っているところが輸入をすると、外国製品ちょっと割高になります。実はこれがね、実質的な関税の役割を果たすんですよ。

これちょっと大事な国内産業保護になると思うんです。

財政問題

そして大きな財政問題として、政府の累積債務の問題があります。

今、国も地方もすごい債務を抱えています。いま、借金で借金を穴埋めしていますので、破局にいたる可能性があります。そこで、e¥と日銀公定歩合なんかと組み合わせてちょっと緩やかなインフレを起こして、政府累積債務を実質的に軽減していくようなことが出来るはずです。これなら、破局にいたらずに軟着陸できます。普通、インフレは年金生活者に大打撃を与えてしまうのですが、ベーシック・インカムと組み合わせてあれば、その痛みは軽くできます。

日銀マネーというのは、企業に渡ってすぐ土地買ったり株買ったりするんですね。で、バブルを起こしやすいお金です。このe¥は、生活者に渡るからお買い物しやすい。モノの値段を押し上げてインフレを起こしやすいんです。

コントロールしやすさ

e¥はコントロールしやすい。4つのパラメータをもつ。

  1. 発行額
  2. 日銀券との交換率
  3. 減価率
  4. 使用料

このe¥は非常にコントロールしやすいです。発行額の調整、日銀券と交換手数料、使うときの一回あたり手数料。時間による減価の率、そういうものでコントロールできます。

例えば月1%目減りしますなんてのは、無くすか低率にしちゃえばe¥は日銀マネーとほとんど変わらなくなります。こういう、アクセルもついてます、ブレーキもついてます、右にもハンドル切れます、左にもハンドル切れます。という形にしておけば非常に対応しやすいんですね。(附記7)

地方通貨も可能

もしかして、いままでの話は、ちょっと難しい話になっているかもしれないですけど、同じような仕組みで、地方からも作れるんですよ。この地方税と地方債とを組み合わせて、地方通貨を作れます。それを財源に、地方ベーシック・インカムを作ることもできます。そのような形でかなり実現性があるんじゃないかと思います。

ちょっと世に問うてみたいと思ったもんですからこういうものを作ってみました。

どうもご静聴ありがとうございました。(拍手)

【附記】
以下は、講演のレジュメにはありませんでしたが、HP版に付け加えたものです。

附記1 e¥の流通残高

このようにe¥を発行していくと、流通残高はどうなるでしょうか。単純化したシミュレーションをしてみました。収束することが一目でわかると思います。

図18:e¥の流通残高 (毎月10兆円追加 月2%回収として)

これは毎月10兆円(年120兆円)のe¥がベーシック・インカムとして渡され、流通残高の2%が毎月回収される場合の、流通残高の20年間のグラフです。

e¥は最低でも月に1%回収されますが、実際の回転はかなり速くなると思われます。仮に2%としました。

500兆円に収束することがわかります。

毎月の回収率が3%だとすると、330兆円で収束します。

現実の動きはもっと複雑になりますが、だいたい現在のM1(現金+当座預金+普通預金)流通残高480兆円と同じくらいになりそうです。

それでも流通残高が多すぎる場合は、

  • 減価率を上げる
  • 減価もしない貸出にも使われない預金または債券を作って吸収する

という方法があります。

附記2 e¥回収額の設定について

113円で回収としましたが、これは普通の円で償還するためです。しかし、やはり100円貯まったところで償還のほうがいいと思われます。シミュレーションをしてみると、e¥113での償還は、ある時期から発行残高がかなり減ります。

附記3 定率法と定額法 古いお金の寄贈

講演では、1ヵ月ごとに所持e¥の1%を抜き取って回収する方法を示しました。この場合常に一定の率で減価しますので、減り方はだんだんなだらかになります。10年間の減価のしかたは次の通りです。

図19:e¥の10年間の減価の推移 (定率減価 月1%として)

もう一つのやり方として、一枚一枚のお金が1ヵ月ごとに99円、98円…というふうに、額面が小さくなっていくやり方があります。定額ずつ減価します。100ヵ月(8年4ヵ月)で消滅します。

このやり方をすると、新しいお金と古いお金が違った性質を持つようになり、年齢が感じられる生き物みたいになります。

図20:e¥の10年間の減価の推移 (定額減価 月1%として)

定額法ですと、1万円を受け取ったときに、e¥100が100枚という場合もありますし、e¥20が500枚ということもあります。毎月の減価がどちらも一枚あたり1円ずつですので、古いお金のほうが目減りの率が高くなっています。e¥100の場合には毎月の減価率は1%、e¥20の場合には減価率が5%になります。使うときの価値に問題はないのですが、古いお金はくたびれています。

この場合、古いお金(たとえば額面がe¥20未満e¥10以上)は学術・文化・スポーツ・教育など、直接の生産でもニーズでもないが、人間の精神文化を維持し発展させるための部門に寄贈するのがいいでしょう。この部門に対して、政治経済状況に左右されない経済的基盤を作ることは、たいへん重要なことです。

その場合、毎月10兆円のe¥を新規発行すると、7年目近くから額面20円未満のe¥が、毎月2兆円ずつ発生することになります。それを文化部門への寄贈に使います。年間24兆円は、かなりの額です。

額面があまりに小さくなったお金は、最後に持っている人が損しないよう、何枚かまとめて新しいe¥100に交換してもらえるようにしておきます。

 

額面が小さくなっていく減価の場合、口座移転手数料も毎月の減価と同じ方式にすると、新しいお金か古いお金かで率が一定せず、経済取引が困難になります。口座移転手数料は、一定の率として、抜き取り方式で徴収するのがよいでしょう。

附記4 “減価ストップ債”の方法

給料がe¥ばかりになってしまった人を保護する他の方法として、“減価ストップ債”をe¥で購入できるようにするという手段があります。この“減価ストップ債”は、e¥管理銀行が売り出し、1年後とか2年後とか決められた期間の後に、買ったときと同じ額でe¥を払い戻してくれます。個人が、給料をもらったときだけ買えるようにします。これを使えば、給料がe¥ばかりの人が、「お金を早く使わないと損する」という圧迫から逃れることができます。

“減価ストップ債”はe¥の流通残高が多すぎる場合の対策としても使えます。吸い上げて休眠させるためなのです。運用資金を集めるための債券ではありません。“減価ストップ債”を売って集めたe¥は、貸出には使いません。貸出に使ったら、また市中に出回ってしまいます。

このような減価しない例外を作るのは、減価マネーを作る趣旨に反するのですが、減価マネーの運用は未知の領域ですので、安全弁を設けておいたほうがいいと思います。

“減価ストップ債”はお金として流通しにくくします。記名式で譲渡不能にします。途中解約すると初めからの減価分を負担しなければなりません。

“減価ストップ債”を売って集めたe¥も減価しつづけているのですが、e¥管理銀行にとっては、自分で回収して自分のところに置いておくので、実質はプラスマイナスゼロです。

附記5 納税されたe¥も減価ストップしない

講演では、納税されたe¥は減価がストップするとしました。

しかし、そうしますと、国や自治体だけがお金を減らさずに貯めておくことができます。これは、国や自治体に銀行業務の特権を与えるようなものです。なにかというと、目減りしないことがウリの「~積立金」を集めることができます。ところが、国や自治体は、お金を運用するのが下手なところです。これまでもたくさんの問題を起こしてきました。

やはり、国や自治体も、入ってきた税収を減価ストップせずに使ってもらうのがよいと思います。国や自治体は、公共サービスの事業体として経済活動を担います。税収は、みんなの必要を満たすために、みんなから集めたお金です。

附記6 利払いの割増費用

講演では、e¥で予算を組むため約4兆円の出費増があるだろうとしましたが、他に国債や地方債などの利払いをe¥で払うための割増を含めていませんでした。これを含めると、さらに約3兆円の出費増になります。

詳しく言うと、現在国債の償還と利払いに約20兆円を使っていますので、e¥割増11.4%で2.3兆円。別に地方債が140兆円(2006年)くらいありますので、その5%が償還と利払いに必要だとして、e¥割増は0.8兆円。

合計約3兆円程度が、公債の償還と利払いをe¥で行うときに新たに必要になります。

附記7 合計5つのレバー

さらに、通貨供給量が多すぎる場合のための“減価ストップ債”も含めて、合計5つのレバーを備えることができます。これら5つで、たいていの事態に対応できると思われます。

第2部終了